揺らぎ ページ2
少女の言うただいまの返答は、いつもただの静寂だ。
誰もいない家に一人『ただいま』と言うことは、どれ程空しく感じるだろうか。
ただひとつ、『おかえり』と言ってもらえれば、全てが救われると言うのに。
誰もいないからと言って、肉親がいないのかと言われればそれは違う。両親は離婚しており、父親はいないが、母親は働きに出ている。
ある意味で発狂している、のだと思う。
少女__由良は生来病気を持っていた。最も、今となっては見る影もなく、健康そのものなのだが。
しかし父親はそれで面倒と感じたのか、由良がこの世に生を受けたと同時に不倫相手と逃亡した。
母親は娘の為にと何とか正気を保っていたが、彼女が成長するにつれ、ただ働く事が脳内のほとんどを占領するようになった。
「お母さん、また帰って来ないのかな」
陽の光がある今なら読める本を手に取りながら、ぼんやりと呟く。
由良が入退院を繰り返していた頃、暇潰しにと母親がプレゼントしてくれた物だ。プレゼントされたことが初めてで、嬉しくて、読めない文字があるにも関わらず何十回と読んだ本。その後も読んでいたので、既にくたびれてしまっている。
「殉じようとしてるのかな」
記憶に一番残っている最後の一文。全てを引っくり返した、考えさせられるその文には、何故か母親の姿が重なった。
由良という名前には意味がある。
母親は、『私の人生を変える揺らぎを作ってくれたかけがえのない子』と言っていたが、反対に言えば『貴方が居なければ揺らぎのない平穏な日々が続いていた』ともとれる。
本の事を連想させたせいで考えすぎたかと苦笑して数分紙にペンを走らせ思考を流す。
もうすぐ日が暮れる。その前までに夕飯を作り、入浴の準備も済ませておかねばならない。
大好きな母親の為に。
『おかえりと言ってくれる貴方に会える事を、私は何よりも望んでいる。
良い意味だろうと、悪い意味だろうと、それは平穏な私の人生にゆらぎをもたらす。
私だけじゃなく、貴方にも。
それこそが、私の生まれた意味なのだから。』
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しのみや(プロフ) - 話題が逸れた気がします『よるのこえ』。時間は空けどようやく更新できました。完全に今読んでる本の影響を受けています。 (2018年1月28日 2時) (レス) id: 7737f27251 (このIDを非表示/違反報告)
しのみや(プロフ) - 日向@引き籠りさん» コメントとお褒めの言葉ありがとうございます。拙い上にかなりゆっくりとした更新ですが、気長にお待ち下されば幸いです。 (2017年11月26日 23時) (レス) id: 71dd0065a1 (このIDを非表示/違反報告)
日向@引き籠り(プロフ) - ヤバいです(誉め言葉)更新頑張って下さい (2017年11月26日 22時) (レス) id: 1076c10db1 (このIDを非表示/違反報告)
しのみや(プロフ) - りゅうかさん» コメントありがとうございます。かなりゆっくりとした更新ですが、気長にお待ちくださればと思います…! (2017年8月27日 18時) (レス) id: a65fa47e99 (このIDを非表示/違反報告)
りゅうか - 続き楽しみにしてます (2017年8月24日 17時) (レス) id: 336901ff2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しのみや | 作成日時:2016年12月27日 1時