【曇天に笑う 男主】空っぽ青年には何も『無』い 第二部

59話 ページ30

「うわ！？」
「何、ちんたら走っている」
「こ、小太郎さんっ！？」

さて、追いかけていた俺ですがいつの間にか担がれていました。

てか、ぞろぞろと風魔の人が続いてるし…。

「そんなに、あの刀は重要なんですか？」
「当たり前だ。大蛇様の存在を脅かすものだ」
「なぜ？大蛇様と器の方を切り離すものだと言ってましたが？」

切り離すというだけで復活を脅かすものではないのでは？

俺の言わんとしていることが分かったのか、チラリと見て、それから目を逸らされた。

「お前も曇家に肩入れしているのか」
「はぁ？当たり前じゃないですか」

あそこにいた時間は俺の宝だ。

生きててよかったって今になっても思えるような時間だ。

「…なら、なぜ…」
「俺は大蛇様が復活すればそれでいい。器の方が大蛇様になってしまうのは見ていられない」

我ながら頭おかしい奴だと思った。

それでも、そう願わずにはいられない。

自分自身が大蛇様に侵されていく事に気が狂いそうになると佐々木さんが言っていた。

解放されるのが大蛇様になった時なんて、あぁ、胸が苦しい。

「俺の周りの人が、大切で大好きな人たちが苦しくて悲しい思いをするのは耐えられない…」
「お前も大概お人好しだな」

小太郎さんにそう言われ一瞬目を見開き笑い飛ばした。

「…ぷっ、あははは！！！」

お人好しねぇ？

「俺は自分勝手な人間なだけです」

それでいて、どっちつかずの中途半端もの。

ぴたりと小太郎さんが止まった。

それから、どさっと俺を乱暴に下ろす。

あの、痛いんですが？

きっと睨みつけるが既に彼は目の前の敵に目を向けている。

俺も仕方なく立ち上がって刀を抜いた。

「あー、やっぱり犲さんかぁ」

ぼそりとそう呟いて刀を肩にかける。

それから、何人いるかを確認してはたっと目を瞬かせた。

見間違えるはずのない栗色の髪、力強い意思をもった瞳。

あぁ、彼だ。

「比良裏…？」

思わずそう呟くと比良裏と俺の目が交わった。

瞬間時が止まったような感覚に陥った。

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