怪演女優 Fifty Six

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『あはは、やばいよねぇ……。アパート取り壊しになるの知らなくってさぁ、もう家賃とかいいから出ていけーって。』

山田「え、なんで笑ってられんの？」

『あ、取り壊しになったのは一週間以上前なの。そこから、ビジホとかネカフェで寝泊まりしてたんだけど、流石にお金なくなっちゃって、昨日の時点での所持金が160円。』

山田「え、じゃあ昨日どうしたの。」

『公園で寝ようと思ったんだけどさ、そこ通り掛かった婦警さんが優しい人で、交番で一晩だけ寝かせてくれたの。』

山田「……今日は？」

『いやぁ、流石に今日もお世話になる訳にはいかないから、ここで男の人逆ナンして寝床確保しよっかなぁって思って。だから来たんだよ？』

山田「いや、お前やめとけって……。ここにナンパしに来る男なんてろくな奴いないからな？」

松村「……。」

山田「あっ、お兄さんの事じゃないからね！？」

松村「……、ここ、そういう人ばっかりなんですか？」

山田「六割は。ヤクザと繋がってたりとか……酷いのだと薬売りつけたりする奴とか。ここに来る女の子は彼氏持ちとかが多いんだよ。」

『……じゃあその四割引き当てたらラッキー？』

山田「馬鹿な事言うなよまじで……。お前にもしもの事あったら、マジで俺、一切責任取れないから。」

『そんなに言うならやまちゃん泊めてよ。』

山田「いや無理だよ、もう彼女いるもん。」

『ええ……だったら無責任なこと言わないでよー。』

山田「お前なぁ……。」

『二週間以内に仕事も家も失くした人に怒んないでよ。……とにかく、良さげな人逆ナンして捕まえてくるから。』

松村「あ、あの、……」

『……ん？』


松村「……うち、来ますか、……狭いですけど。」


山田「……お？」

『……っ、いいの、？』

松村「……うちなんかで、良ければ。」

『っ、ありがとう！！ほんっと助かる！！』

山田「ほんとに大丈夫？」

松村「……僕は全然。」

『じゃあそうと決まれば、案内してもらえる？』

松村「っ、はいっ、」

『ごめん！今度お金使いに来るから！』

山田「……大丈夫か？」


『よいしょっ、』

松村「……持ちましょうか、？」

『あっ、ううん、代わりにね、傘さして、？』

松村「あっ、はい、」

『どっち？』

松村「あ、っち、」

『はーい、』



ずぶ濡れの彼女を家に呼んだのは、善意とかじゃなくて

なんとなく、死ぬ前にいい事がしたかっただけ。

……だと、思う。




─ モノクローム・ラバー ─

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