怪演女優 Fifty Six

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樹くんは結婚願望とかはあるの？


と聞いてきたのは、何を隠そうAちゃんのパパ。

年始にAちゃんの実家にお泊まりした時、たまたま二人きりになった時に聞かれたのだった。

正直、結婚したい気持ちは凄くあるし、二人でなら地獄だって怖くないと思えるくらいには愛してる。

だけど、実際に結婚できるかと言われれば別で。

Aちゃんも俺との生活に慣れたみたいだし、仕事の事を抜いたら今が一番適しているタイミング。

でも俺はアイドルだし、デビューしてる人間の中でも若手の方だし、結婚ができるかと言えばそうじゃない。

いろんな事を加味して、「まだ分かりません。」と正直に答えたけれど、それが正しかったのか分からない。

でも、


「Aの事、どうか末永くよろしくね。」


と言ってもらえたんだから、Aちゃんのご家族も認めてくれているんだろうなと嬉しくなった。

だけど、本来ならこのタイミングでプロポーズもしたいんだよな……とか思ってしまうのも事実。

Aちゃんもお仕事があるし、結婚生活を送る……と考えると、今じゃないのかなとも思う。

自分の中で意見が矛盾していて、正直迷っている自分がいて、その事で頭がいっぱいになっていた。


『おーい、』

田中「え？」

『リフト乗るの次だよ。』

田中「あぁ、うん。」


スキーウェアのAちゃんが本当に美しくて、脳内にback numberの曲が流れる。

「ヒロイン」だったっけ、「クリスマスソング」だったっけ。……そんな事どうでもいいくらい美人だな。

Aちゃんはゲレンデマジックみたいな、こんなちっぽけな魔法に掛けられなくても女神だけど。

なんて思っているとリフトの順番が来た。


『緊張してる？スノボ久々だって言ってたけど。』

田中「そこそこ。もうすぐドームツアーなのに右足骨折したとかなったらシャレにならないし。」

『気を付けてたら大丈夫だよ。私も久しぶりだし、二人でゆっくり滑ってたら怪我しないよ。』

田中「……それで置いてく奴いたよね。」

『あー、マラソン大会とかで？』

田中「そうそう。」

『私そういう子いても追い越しちゃうからな。』

田中「つっよ。」


自分が高所恐怖症なもので、リフトがどんどん上がっていく度、心拍数も同じように上がる。

それを見越してなのか、いつもより座る距離が近いのも、本当に愛されてるんだなぁって思う。


『……ん？』

田中「Aちゃん俺の事大好きだなぁって。」

『はい？』

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