怪演女優 Fifty Six

・ ページ19

・



田中「……倦怠期。」

『……忘れて？』

田中「無理じゃね？」

『……うん。』


倦怠期かぁ。と、煙草の煙を吐き出す樹くんは、濡れ髪という事もあり、なんか色気があって。

ただ、今はそんな事どうだって良くて、彼女が倦怠期だって思ってると知った樹くんはどんな反応をするだろうか。


田中「……Aちゃん、俺に飽きちゃった？」

『飽きたっていうか……慣れはあるよね。もう付き合って二年五ヶ月、同棲始めて一年半くらいだし。』

田中「……たしかに。」

『……、なんか、ごめんね。』

田中「いや、全然いいんだよ。そりゃこんだけ一緒にいたら「倦怠期かな？」ってなる時もあるべ。」

『……樹くんはさ、私と付き合ってる中で、「なんか倦怠期だよなぁ」って思った事ある？』


恐る恐る、聞いてみた。

「あー……」と言いながら、煙草の火を消す樹くんを見て、一体これから何を言われるのだろうと怯えてしまう。

自分から聞いたくせに、なんて我儘な女なんだ。


田中「……ないね。」

『……、そうなんだ。』

田中「うん。Aちゃんはさ、信じらんないかもしれないけど……今だって、煙草吸ってるAちゃん見て……結構ドキドキしてるし。」

『……へぇ、』

田中「え、引いた？」

『引いてない。』

田中「ただ、やっぱ慣れはちょっと感じてるよ。……でも、俺は幸せだなぁって思ってる。」

『……幸せ。』

田中「だってさ、「おかえり」「ただいま」って言い合えるのに慣れたって事じゃん？……幸せじゃね？」


見た目が怖いから勘違いされる事が多い人だけど、こうやって目を見てはっきり想いを伝えてくれる人で。

あぁ、そういう所が……。


『……あれ？』

田中「え？」

『……いや、なんだかんだ、まだちゃんと樹くんの事好きなんだなぁって思って。』

田中「……そんなにはっきり言われたら照れるんだけど、」

『言わない方が良かった？』

田中「いや言って。最低でも一日一回は言って。」

『多くない？』

田中「少ねぇべ。」

『愛情過多になるよ。』

田中「いいじゃん。」


杞憂だったか。と思い、スマホの画面を閉じた。

恋のドキドキとか、トキメキは少なくなるかもしれないけれど、それもまた、彼となら楽しめそう。

……これが恋心から、愛情への変化なのかな。

と思ったけれど、言ったらどうせ茶化されるので、樹くんにその事を言うのは辞めておいた。

第二話 忘れ物とテキーラ→←恋の賞味期限

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す