怪演女優 Fifty Three

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『それに、あの監督は俳優としてじゃなくて、ジャニーズ事務所のタレントとして北斗くんを見てたんだよ。……そんなの、こっちから願い下げじゃない？』

松村「……うん。」

『だから謝らないの。北斗くんはちゃーんと胸張って、前を向いて生きていけば良いんだよ。』

松村「……っ、ありがとう、」

『ね？ほら、お肉食べて。いいお肉なんだから。』


その時、Aちゃんのスマホが鳴った。

「ちょっと待っててね。」と言ったAちゃんは、スマホを耳に当てながら廊下に出た。


田中「優しいよな、Aちゃん。」

松村「……心配になるくらい、優しい。」

田中「……あの会見開かれた時、俺仕事してたんだけど、……帰ってきたら振られると思ってたんだよ。……一応、疑惑の事務所に所属してるわけじゃん？」

松村「……まぁ、有り得ない話じゃないよな。」

田中「だろ？でも、Aちゃんはなんにも触れてこなかったんだよ。……「おかえり」って言われた時、正直泣きそうになったよ。」

松村「……っ、」

田中「……Aちゃんは、俺らの事ちゃんと一人の人間として見てくれてんだよ。……だから心配すんな。あの子は俺らの味方だよ。」


樹がAちゃんの事を好きになった理由が、ほんの少しだけ分かったような気がした。

あんなにあったかい人はいないし、あそこまで怒ってくれる人は、後にも先にもいないと思う。

以前、樹は結婚も考えてると言っていたけれど、彼女となら、樹は幸せになれるんじゃないかな。

……と、そんな事を漠然と思った。


田中「おっ、おかえりー。」

『えーっ……北斗くんにお知らせがあります。』

松村「……っ、何？」

『今マネージャーから連絡があって、例のドラマの制作はそのまま続ける事になって、その代わり、監督が、別の方と変更される事になったって。』

松村「えっ、」

『もちろん北斗くんの出演もそのままです！！』

松村「……っ、はは、まじか、」

田中「おぉ、良かったじゃん。」

『よーし！！お祝いお祝い！！いつから撮影かは分かんないけど、恋愛ドラマの撮影頑張ろう会！！』

松村「っ、おぉーっ、」

田中「てかさぁ、一個聞きたいんだけど……。」

松村「何？」


田中「……北斗とAちゃんで、恋愛ドラマって何？……俺聞いてないんだけど、」


『……あっ、』
松村「……あっ、」

田中「北斗……。てめぇ……。」

松村「いてててて！！！ごめん！！ごめんって！！」

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