怪演女優 Fifty Two

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あぁ、この子はずっと泣くのを我慢していたんだろう。

俺と電話している間も、電話していなかった時間も、ずっと、ずっと、誰かといる時は泣くのを我慢して、歯を食いしばって仕事をしていたんだろう。

すすり泣く声で、Aちゃんはこう続けた。


『私、っ、……人生で神様に恥じるような事は一度もしてないよ、？夜遊びもしてないし、仕事貰う為に偉い男の人と寝たりなんてしてない……っ、』

田中「うん。……うん、大丈夫。……分かってる。」

『なのに……っ、なんで、こんな、酷い仕打ち受けなきゃならないの……、？』


今すぐに抱き締めて「大丈夫だよ」と言ってあげたいのに、物理的な壁に苛まれ、ただ、泣いてるAちゃんに声をかける事しかできなくて。

本当に、こんな、役に立たない、無力な自分が嫌になる。

すすり泣いている声を黙って聞いているだけなんて、本当に情けない。

こんなの、彼氏失格だ。


田中「っ、ほんと、……なんも、できなくてごめん……。」

『……っ、ふふ、もう、大丈夫。……樹くんに、なにかしてほしくて電話したわけじゃないし……。ごめんね。話聞いてもらっただけで、大丈夫だから。』

田中「……、大丈夫じゃないでしょ。」

『…………。』

田中「……Aちゃんの大丈夫は、いつも大丈夫じゃないよ。……何にもできない俺が言える事じゃないけど、……だからって、大丈夫で自分を押さえ込んじゃ駄目だよ。……俺にいっぱい文句言って、吐き出してほしい。」

『………、』

田中「……Aちゃんから連絡ないだけで、俺もう、息できなかった……。一人で泣いて悩んでるんじゃないかって思って、ほんと、……。」


やばい、口にしてるだけで泣きそう。

俺だってAちゃんの支えになりたいし、頼ってほしいんだけど、……こんな状態でスマホなんて開けるわけないし、無責任な事、Aちゃんには言えない。

Aちゃんの呼吸音が数回、その後、Aちゃんが口を開いた。


『……ありがとう。』

田中「……っ、うん、」


『……でもごめん。……申し訳なくて、そんな事できないや……。』


田中「……えっ、」

『……あはは、ごめん、もう、……っ、大丈夫だから、っ、』

田中「Aちゃ、」

『っ、ごめん、……っ、もう切るね。』

田中「あ、ちょっと、」


大丈夫で自分を押し殺したAちゃんは、電話口の俺にも分かるくらい泣いていて……、余計に、放っておけなくなった。

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