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『わぁ……っ、』

田中「すげぇ……。」

『……綺麗だね。』

田中「ね。……来てよかったわ……。」


東京から二時間ちょっと、車で軽井沢に到着した後、人も少なく、紅葉が綺麗に見えると言われている穴場スポットまで歩いて10分。

樹くんと私の視界に赤色、黄色、橙色……、暖色系を基調としたカラフルが映し出されてて、絵画を目の当たりにしているような景色に息を飲む。

平日の昼間だからか、観光地にも関わらず人はほとんど居なくて、そのロマンチックな光景を二人きりの世界で楽しみたくて樹くんに一歩近付く。

すると樹くんは周りに自分を知っているような人がいないか確認した後、私の方に一歩近付き、私の小さな手を樹くんの大きな手で握った。

恋人繋ぎ、と呼ばれるそれは相手の体温を直接的に感じる事ができて、樹くんの温かい手が身体に伝わってきて、なんだか幸せな気持ちになる。

職業柄、周りに人がいないか何度も確認してしまうので、なんだかやましい事をしている気分だけど、やましい事はしてないし、バレる気もしない。

コロナ禍という事もあり、ちゃんとマスクはつけているし、なんなら樹くんは帽子を深く被り、薄い色がついたサングラスをかけているのだから。

……え、ちょっと待って、サングラス?


『……樹くん、サングラスかけてて景色分かる?』

田中「ん?うん、これね、意外と分かんの。……かけてみ?」

『……あぁ、ほんとだ、意外と分かるね。』

田中「ね?……でもやっぱかけないでおくわ。」

『レンズ通さずに見た方が綺麗でしょ。』

田中「うん、……綺麗。」


樹くんの目の中には、いま私と同じ景色が流れているんだな。

随分と浮かれた考えかもしれないけれど、そう思うとなんだか嬉しくて……繋いでいる手の力を強めると、それに返すように樹くんも力を強めた。

……その姿には、ほんの少しだけ哀愁が漂っている気がして、精神的にだけじゃなく物理的にも傍にいてあげたくて、もう一歩近くに寄ろうとした時。


『っ、へ……?』

田中「びっ、くりした。……え、何?」


辺りにごーん、ごーんと鐘の音が鳴り響いた。

その観光地で鳴り響くと思わなかった大きな音に樹くんと私はびっくりしてしまうけれど、驚きよりもその音の正体が気になってしまう。


田中「……鐘の音?」

『だね。……あっちからかな?』

田中「うん、あっち。……見に行く?」

『うん、行こう?』

田中「行こっか。」

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作者名:花火2016 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年10月10日 23時

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