怪演女優 Thirty Six (ページ20)

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「星蘭……、お前、何を言って……」

岩本「……………………、何故？」

『……あの人の事が、忘れられないんです。』

岩本「…………、あの人、？」

『………出会ってからずっと、私の本心を突き動かしてくれてるあの人の事が、どうしても忘れられないんです……。』

「……宮園さん、これは一体、」

『このような大切な儀式を台無しにしてしまった事、息子さんの人生を壊すような真似をしてしまい、大変申し訳なく思っております。……ごめんなさい。ですが、こんな、しっかりと定まっていないような気持ちで大切な息子さんと結婚するのは、どうしても……できなくって……。』

岩本「……もういいよ、星蘭、」

『えっ……？』

岩本「……知ってるよ、……あいつの事が忘れられないのも俺の事を心から好きになってくれないのも。全部知ってる。……振り向いてくれないのも、全部知ってるから。」

『……虎児、さん、』

岩本「あいつと出会ってから星蘭の笑顔が増えた事は分かってたし、……あいつと別れた時から星蘭の笑顔が減っていってたのにも、気付いてた。……笑顔が消えた星蘭を見る度、胸が苦しくなってた。

……誰よりも大事だった星蘭には、ずっと笑っててほしかったのに、いつの間にか……独占欲で頭がいっぱいになってた。」

「虎児、お前何を言ってるんだ、」

岩本「………今まで君を縛りつけてごめん。……苦しめてごめん。自分勝手に……君の事を好きになってしまってごめん。……君は君のしたい事を、好きなようにするべきだよ。」

『……、ごめんなさい……っ、』

岩本「泣かないで、……君は悪くない。……笑顔を奪ってしまったのはこっちなんだから……、本当にごめん……。」

『虎児、さ、』

岩本「……破談の条件として、彼と幸せになる事を約束してください。……それが僕からの、最後のお願いです。」

『っ…………、ありがとうございます。』

「……………、」

『お父さんも、ごめんなさい……。……だけど、何度考えても……このまま宮園流を引き継ぎ、華道家になったら……大好きな華道まで嫌いになっていくような気がして……。

……それだけは、どうしても嫌で、耐えきれないんです……。』

「…………………もういい、」

「宮園さん！」

『…………。』

「……宮園星蘭を破談にする。……署名しなさい。」

『……………この書類、いつ、』

「……10年ほど前からだ。……桜から、……お前の母さんから言われていたんだ。」