誕生日 ページ25
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今日は航大くんの28回目の誕生日。
ずっと前からサプライズされた時のリアクションを取るのが世界一苦手。と言われてきたのでサプライズはしない。
だから「明日、楽しみにしててね。」とだけ言っておいた。
頑張って作った美味しいご飯とプレゼントと、かすみ草の花束をテーブルクロスを敷いた机に置いて、航大くんを待つ。
こんな日も仕事だなんて、大変だな。と思いながら時計を見ると、もう時間は夜の八時をとっくに回っていた。
もうそろそろ帰ってくるはずなんだけど。
そう思った時、電話が来た。スマホに表示されたのは、「航大くん」の文字。私は急いで電話をとる。
『あ、もしもし、航だ、』
浅香「ごめんAちゃん!急遽仕事入っちゃって…」
『えっ?』
浅香「監督が「今日は誕生日だから飲みいくか!」っていう話になってるから今日中に帰れそうにない、本当ごめん。」
『え、あっ……そっ、か。』
「浅香さーん、お願いしまーす。」
浅香「ごめんね、呼ばれちゃったから、もう切るね。」
『あ、……切れた、』
……こういう仕事をしていると、こういう事もある。
急遽撮影が入ってしまったり、打ち合わせが長引いたりで約束を守れずに申し訳ない思いをしてしまう事も多々ある。
多分、テレビ局で働いている人は分かってくれるはず。
誕生日なのにな。そう思いながら、真っ白なテーブルクロスが掛かったテーブルの上に並べてある数種類の料理を見る。
熱々で用意されていた料理は既に冷め切ってしまっていて。そんな料理の数々を見るとなんだか切なくなってしまう。
そっか、仕事か。そう思いながら、ご飯の後にお酒の肴として食べれるように、と置いといたチーズをつまみ食いする。
癖のあるチーズを食べたら、ワインが飲みたくなる。なんてそんな大人な事は思わないけど、とりあえずワインを飲む。
『……お酒くさい、』
準備、頑張ったんだけどな。
慣れない料理も頑張って作ったんだけどな。
プレゼントに買った腕時計、見て欲しかったんだけどな。
かすみ草、もう萎れちゃうかもしれないのに。
監督の誘いなんて断ってこっち来ればいいのに、と思ってしまうけど、そういう訳にも行かないから困るのだ。
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