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「ねえ梢、ほら、泣きなさいよ。」

「そうよ、何度も何度も蹴られて、痛いでしょ?」

『…………………、』

「…何よその目。生意気なんだから、」


あの時、すぐに姉ちゃんから怪物を引き離していれば、

姉ちゃんの体が痣だらけになる事もなかったんじゃないか。


だけど、そんな酷い事をされても姉ちゃんは、

怪物たちが去った後に現れた僕に、

「大丈夫だから。」と笑いかけるんだ。


そんな、悲劇のお姫様みたいな姉ちゃんを、

怪物から守れる王子様のような存在になりたかった。

なのに、

あの日、僕は、



岡田「…………姉ちゃん…姉ちゃ、ごめ、」

『大丈夫だから。』

岡田「……えっ………………?」

『…大丈夫。』


姉ちゃんを傷付ける、怪物になってしまった。







岡田「ねぇ、」

「…おぉ、どうした、全。」

岡田「…叔父さんは、姉ちゃんの父親で良かった?」

「……………………、どうしたんだ?急に。」

岡田「…叔母さんは?…姉ちゃんを産んで良かった?」

「…………………………………、」

岡田「…………なんで何も答えないの?」

「えぇー?何も言わないのー?ひっどーい。」

「もしかしたら、娘、失踪したのあんたらが原因かもね。」

「梢かわいそー。全、あんた何聞いてんの?」

岡田「……………………、」

「全、あんたがあいつの事どう思ってるか知らないけどさ、もうそろそろ諦めたらどう?あいつは、私達の召使、」

岡田「明日昼からの登校だから。…おやすみ。」


その瞬間、部屋に入った瞬間。

何かが音を立てて切れたような気がした。

姉ちゃんを産んでおいて、傷付けて。

姉ちゃんを傷付けておいて、結局は見て見ぬふり。

だけど、それは僕もだ。僕もあの怪物と同罪だ。


僕は、最低だ。


「じゃあ全、鍵ちゃんと閉めるのよ。行ってきます。」

岡田「………………、」


あの時、何を考えていたのか自分でも分からない。

気付いたら学校に欠席の連絡を入れて、強盗が被るようなマスクを付けて、スマホのカメラを起動させていた。

あの物語の野獣だって、美女と幸せに結ばれたんだから。

僕はまだ、やり直せる。

僕は、姉ちゃんを救える。


真実を世間に届けてやる。

その為には、


岡田「僕が、伊吹梢さんを失踪に追い込んだ犯人です。」


なんだってやってやる。

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作者名:花火2016 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年8月3日 1時

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