怪演女優 XIX (ページ21)

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綾野「じゃ、俺こっちだから。」

常田「じゃあね、剛ちゃん。」

『お疲れ様でしたー。』

二時間半の飲み会も終わって、常ちゃんと私の帰る方向は一緒だったので、店の前で剛さんとだけ別れた。

あれから二時間半も経っているのに、あの気づいてはいけない感情が頭の中をずっとぐるぐると駆け巡っていて。

正直、二人と何を話したか覚えていない。

常田「……なんかあった？」

『ん？』

常田「…最近ぼーっとしてる事多いから。」

『……常ちゃんは私が結婚したくないって言ったらどう？』

常田「別にいいんじゃねぇ？」

『軽っ。え、彼氏の母親に挨拶行ってんだよ？しかも…私はストーカーから助けて貰ってるわけだしさ、』

常田「挨拶行ったら結婚しなきゃいけない、とか、ストーカーから助けて貰ったら結婚する、みたいな決まり無くね？」

『…まぁ無いけど。』

常ちゃんは人にない感性を持っている。

だから強く生きているんだけど…私は常ちゃんほどハートは強くないし、多分、このまま変われない。

常田「…後悔しない選択をしろよ。」

『え？』

常田「…後で取り返しのつかない事になるから。」

『……白日みたいな事言うね。』

常田「…まぁ、俺が作ったんだから。」

そっか。と微笑む私に、赤ちゃんみたいな笑顔を見せる常ちゃんがいるけど、あの時みたいな感情にはならない。

自分からあんな感情になったのは、かれこれ中学生ぶりで。

図書委員だった同級生の彼を見た時と同じような感情になった事に今更気付いて…。これが私の初恋だった。

ん？という事は、

もしかして、剛さんに抱いてる感情は、

『…ねぇ、常ちゃん、』

常田「ん？」

『お願いがあるんだけど、』

常田「どうしたの、」

『…髪、触ってくれない？するって。』

常田「は？なんで、」

『いいから。』

押し負けるような形で、常ちゃんはさっきの剛さんみたいにスルッと髪に触れた。やり方は同じだったはず。だけど…

『……ありがとう、』

常田「え、何、」

私の謎のお願いに怪訝そうな顔を向ける常田さんに気付かない振りをしながら、気持ちと頭を整理する。

こういう時、意外と私って冷静なんだなぁ。

思えば、自分から恋愛をした事なんて大人になってから一度もなかった。告白されて考えて、付き合って。

それで上手くいかなくても、まぁいいや。で済ませて。

さっき抜いたはずの感情の芽がぐんぐんと成長していくのが分かり、どんどん顔と体が熱くなっていく。