怪演女優 XVI (ページ21)

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『美味しい…。』

浅香「うん、美味しい。」

その後、航大くんと二人でザッハトルテを完成させた。

やっぱりこないだ食べた本場の物よりはいくらか劣ってしまうけど、それでも美味しいのには変わりない。

一人で作るなんて難しいって事くらい知っていたのに、一人で作る！頑張る！なんて思ってしまったんだろう。

こうやって二人でちゃんと作った方が美味しいのに。

浅香「あの…Aちゃん。」

『ん…？』

あっ、絶対幻滅された。

何言われるんだろう…と少し体が強ばる。

すると、航大くんは隣に座ってザッハトルテを食べていた私の頭を撫でたかと思ったら、するっと髪の毛を触る。

その手つきが優しくて少しだけびっくりしてしまう。思わず「ん…？」と言ってしまったくらいだ。

浅香「背伸びしてるのも見てて可愛いなって思うけど、俺、Aちゃんのありのままが好きなんだよ？」

『…本当？』

浅香「うん。頑張って背伸びしてわざわざザッハトルテとか難しい物作らなくても、Aちゃんだったら、コンビニで買った板チョコそのまま渡されても嬉しいもん。」

『…それは嘘でしょ？笑』

浅香「…うん、あ…それはちょっと…」

『笑笑素直だね。笑』

浅香「Aちゃん作るの簡単なお菓子って何？」

『えっとね…クッキーは比較的簡単な方かな。』

浅香「じゃあ…クッキーでいいんだよ？無理に背伸びしたって自分が疲れるでしょ？思いが込められてればいいんだよ。」

まさかそんな事言ってくれるとは思わなくて嬉しかったのと、まだ私は航大くんのこと何も知らないんだな。と再認識した。

難しいものを作れば喜んで貰えると思ったけど、この人は本当に私のありのままを好きになってくれたんだ。

そう思ったら「この人を好きになってよかった。」なんて…なんとも月並みな表現だけど、そんな風に思えた。

『わかった。じゃあこれからのバレンタインは板チョコをあげる事にするね。一番楽だし背伸びしないから。』

浅香「え？……あ、うん、そっか。」

『…航大くん？』

浅香「板チョコ…ね。うん。そうだね、楽だからね。」

『航大くん、ん？航大くん？』

浅香「ん…？え、なに…？」

『…あの…冗談。さすがに、今付き合ってる人に板チョコ一枚をはい！って渡せるメンタルは私には無い。』

浅香「…………だよね？」