episode 28 ページ30
・
足が痛くて大学に行けない間、私はできるだけ自分の寝室に引きこもって、とある作業をしていた。
それは……
『…これ怒られちゃうよなぁ………。』
神谷さんの横顔の絵だった。
あの時の神谷さんが忘れられなくて、後で捨てようと思って描いていたら、良い感じになってしまったのだ。
別にこれをどうする訳でもないのだけど、なんだか捨てるのが勿体なくなってしまった。
まだ鉛筆画なので、万人受けするような絵でもないのだけれど、自分の中では最高傑作になったと思う。
これ、本人に見られたら引かれるなぁ……。
『…でも描いちゃったからなぁ……。』
引かれると分かっていても、見れば見るほど手直ししたくなり、どんどん良い作品に仕上がっていく。
美術大学の学生の悪い所なのだけど、もう辞めよう。と頭では思っていても体が勝手に手直ししてしまうのだ。
あの日近くで見ていた顔と全く同じような作品になり、コンクールに出したら完全に金賞を取っていた。
それほどの自信はあるが、もちろん神谷さんには無断で描いているので、コンクールに勝手に出す事もしない。
それだけ素晴らしい作品だと言う事だ。
『…何度見てもいい作品だなぁ……。』
そうやって自分の絵を自画自賛する。
これも美術大学に通っている大学生あるあるの一つなんだけれど、少しだけ罪悪感がある。
モデルの方に無断で描いているのだから罪悪感を感じない方がおかしいのだけれど、なんだか申し訳ない。
だけど、お姫様抱っこをしてくれていた神谷さんの横顔が頭の中から離れなくて、気が付いたら描いてしまっていたのだ。
……綺麗だなぁ。
…なんだか今思った事は口に出してはいけないような、そんな気がしたので言わないでおくけれど。
口に出したら変態扱いされる。
…もうちょっと髪の毛に艶あるか…？
…もっとまつ毛長かったような気がする……。
誰もいないマンションの一室で、気が付いたら頭の中で手直しの事でいっぱいになり、体が勝手に動いてた。
本当は誰かに見せたいけれど……
…この絵は墓場まで持っていこう。
だけど絵自体は捨てたくないので、置いていた台からキャンバスを外し、私のベッドの下にキャンバスを隠す。
ここまですると本当に変態みたいなのだが、誰にも見られない場所はここしか無かったのだ。
良い絵が描けて満足なのと、神谷さんに無断で描いてしまった罪悪感が混ざって複雑な気持ちだった。
良い気分なのは変わりなかったけれど。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 636人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はる - 花火2016さんこんばんは。いつも楽しく読ませていただいています。とても好きなお話なので花火2016さんのペースで更新してくださいね。いつも素敵な文ありがとうございます！ (2019年8月18日 1時) (
レス) id: 31d2b33c66 (このIDを非表示/違反報告)
花火2016(プロフ) - 明里香さん» あらっ！？笑 なんか誤字したら幼稚園かのような可愛さが…笑 ありがとうございます！ (2019年8月15日 0時) (レス) id: cdf4b9c055 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 36話に誤字がありました。「お描かき」ではなく、「お描き」です。 (2019年8月15日 0時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
かほのの(プロフ) - 浅香航大くん大好きだし、ストーリーもすごく好きで丁寧に進むのでいつも楽しませてもらってます！お星様赤くなったんですね！おめでとうございます！！ (2019年8月14日 18時) (レス) id: 3849697800 (このIDを非表示/違反報告)
未定。(プロフ) - もう神谷さんめっちゃくちゃ好きだったのでほんと有難いです。無理せず頑張って下さると嬉しいです( ＾ω＾) (2019年8月13日 5時) (レス) id: 43a7b14b9e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
