香り。２

episode 55 ページ11

和有「夕希子を火葬して、アメリカに連れて帰ろうと思います。」

糀谷和有さんは、お姉ちゃんを火葬して帰るつもりだと中堂さんに言った。

私は和有さんとは話したくなくて、会話が聞こえる程度の距離に隠れていた。

中堂「これ、遺品です。」

中堂さんは、ピンクのカバの絵を和有さんに返そうとしていた。

和有「この絵は、あなたが持っててください。」

和有さんは、受け取ろうとしなかった。

和有「生前、夕希子が言ってました。今度の絵本は、2匹のピンクのカバと1匹のリスが旅をする話だと。」

リス……。

それを聞いて、きっとお姉ちゃんと中堂さんと私の話だと確信した。

和有「…夕希子は、あなた達と一緒に住むとなると甘えてしまう。と一旦離れる事を私に伝えていました。そしてまた、3人に戻って一緒に旅をするんだ。と。」

…そうだったんだ。

すると和有さんは悲しそうな表情をして


和有「…Aには、本当に申し訳ないことをしてしまった。」

私は驚いて和有さんを見る。

和有「私の不倫で産まれてきたのにも関わらず、あの子を置いてきてしまった。」

私と中堂さんは、その話を黙って聞いていた。

和有「あの子に伝えておいてくれませんか？」

中堂「…なんでしょう。」

和有「あの時、お前を置いてきてしまった事。それによって辛い思いをさせてしまった事。本当に申し訳なかった。」

……………。

和有「…今でも、お前を愛してる。と。」


…私は、愛されてたんだ。

あの時、お姉ちゃん以外にも愛してくれた人はいたんだ。


中堂「…そう言うのは、本人に直接言った方が良いかと思います。」

そう言って中堂さんは隠れてた私の手を引っ張った。

和有「A…。」

『………。』

すると和有さんは、頭を深々と下げて

和有「本当に、あの時は申し訳なかった。色々と辛い思いをさせてしまって…。」

『…うん。』

和有「…だが、お前が産まれてきてくれたあの時からお前の事を1秒足りとも忘れたことはない。」

『…うん。』


和有「産まれてきてくれて、ありがとう。」

……また涙が溢れた。

なんだか、心の痞がふっと取れたような気がした。


『…ありがとう、お父さん。』


初めて、人をお父さんと呼んだ。

…お父さんは、私を見つめて涙を流す。

和有「…夕希子の旅は終わってしまったけど、あなた達は生きてください。」

そう言って私達にお辞儀をして、行ってしまった。

そこに残された中堂さんと、2人で一緒に疲れるまで泣いた。

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