裏切りの刀

不動と本能寺 ページ41

備前「……。」

さっきから明智は暗い顔で黙ってばかり。
まぁそれも仕方ないか。
今から本能寺の変が行われるのだから。

備前「不動くんは平気なの？」

青ざめた顔でやっと口を開く。

不動「二回目だし。」

備前「そうなんだ。」

沈黙が流れる。

そろそろだ。

本能寺に火の矢が次々と突き刺さる。
それと同時に燃えだした。

不動「っ。」

嘘だ。
二回目だからって平気な訳がない。
これを見ると嫌でも思い出す。
俺は、俺達はあの中にいた。
燃え盛る本能寺の中で自害した信長公に
しがみついて泣いていた。

不動「！？」

何気なく横を見ると明智の目から
涙がぽろぽろと溢れていた。
突然の事に不動は固まる。

不動「な、なんでお前が泣いてんだよ。」

備前「だって思い出しちゃったから。
寺の中から聞こえた不動くんの声。
私、悔しかった。」

ズズッ。

明智が鼻をすする。
メラメラと燃える本能寺の火に明智の顔が
照らされた。

備前「あの時と同じ。私、今、とても辛い。
助けたいのに助けられない。見てるだけしか
出来ないなんて辛いよぉ。」

ポロポロと明智が泣く。
こいつは今も昔も俺の為に涙を流している。
この時、俺は中にいた。
外のことなんて知りもしなかった。
ただ怨むだけだった。

備前「うぅ…。」

そうだ。俺だけが悲しかったんじゃない。
俺だけが辛かったんじゃない。
燃え盛る炎の中で泣き叫ぶ俺(友達)を
こいつは見ていたんだ。

不動「俺は今お前の隣にいる。」

信長公は死んだ。光秀の手によって。
燃える炎は今でも夢に出てくるけど…。

不動「俺は大丈夫だから。」

そろそろ許してやろうと思う。
優しすぎるこのバカの事だから
悩んで悲しんで苦しみ続けた筈だ。
きっと今も。

不動「泣き虫な親友はいらねぇぞ。」

備前「…うん。もう平気。」

涙を拭う。
柔らかい春の陽射しの微笑み。
そうだ。
お前はそうやって笑っていればいい。

淡い想いがいつかの初恋を色づけた。

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