兎と微熱 (ページ5)

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「そうだ。おもしろいもの見せてあげる」

そう言う彼に手を引かれる。

あ…あの夜のにおい。

彼の匂い……
少しも経ってないのになつかしくて
やけに、鼻をくすぐられる。

「ちょっと、どこ行くの…」

「どこって。言わなきゃだめ？」

「……だめに決まってるでしょ」

…あからさまにハの字になった眉。

前髪が下りているからか
あの日とは違って、いじけた子供みたい。
なんだ。やっぱり年下っぽい。

「だめって…
なんの心配？」

いつのまにか手は恋人繋ぎ。

かわいい顔とは裏腹に
男っぽい彼の手が絡まってくる。

…こんなことするから。心配にもなる。

大学で別れてから
しばらく彼氏なんて居なかったし

…慣れないな

手がだんだんと汗ばんでいく。

「どきどきしてる？」

「…なに、急に」

「脈が速いから。もしかしたらって」

あのときは分からなかったけど
あたしより相当デカい背。

…かわいい顔してスタイルも良い。

急に振りむく彼と目があうと
「かわい」
と笑う彼の目にバクバクする心臓。

「…
誰にでも言ってるでしょ。」

「どうして？」

「……」

どうしてって…

「やだ？」

とつぜんギュってされたあたしの体。
彼の胸らへんにうまる顔。

「ねぇ、Aさん…
誰にでもするわけじゃないよ？
Aさんがかわいくて。つい、しちゃう」

名前…

パッておどろいて顔をあげると
くすくす笑う彼があたしを見下ろす。

「なんであたしの名前…」

「ふふ。それを話そうと思ってた」

気づいたら近所の公園の中。

「…すわって？」

ぽんぽんとベンチを叩く彼。

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