▽生まれたからには ページ22
・
くしゃりと長い前髪を握った鬱様は、それ以降はまた普段の関西弁に戻った。
別に標準語が悪い訳ではないのだが、どうにも知らない人と話しているようで落ち着かないのだ。
「小物の1つでも強請ってくれてもええのに」
『普段貰い過ぎてるくらいですよ……』
「俺らは皆Aちゃんの虜やからなぁ」
一人称も僕から俺へ。
“皆”と言われて咄嗟に浮かんだ軍人達の顔に何とも言えない気持ちになった。
そんな私の憂鬱を察してくれたのか、彼は「あっちも見に行かへん？」と即座に話を切り替えて私の手を引いた。
『鬱様、あの方々は何をなさってるのですか？』
「んー？……あぁ、あら旅芸人の一座や」
旅芸人。聞きなれぬ職種に興味を引かれ円形に人の集まるそこへ遠目ながらも注視する。
人だかりの中心では、この街では滅多に見ない若い女性達が妖艶な衣装を身に纏いながら華麗な舞を披露していた。
「ほぉ〜ん、なかなかの肉体美を……」
『祭事中は女の方も随分と多いようですね』
「それな、…あ！俺はAちゃん一筋やで？」
『あはは』
乾いた笑いが漏れたが鬱様はあまり気にしてないようだ。
そのまま暫く舞う姿を眺めていると、演目が終わったのか彼女達はゆるりと動きを止め男達に手を振った。
『殿方達はしきりに何かを話しかけているようですが…？』
「せやな」
『あれは何かの儀式ですか？』
「んっふふ、ちゃうよ。あいつらは女の子にアピールしてんねん」
的外れな事を言ってしまったようで彼は愉快げに喉を鳴らしたが、子供に語るような丁寧な口調で教えてくれた。
この世界は圧倒的に男が多い、その為に流浪の民という身分であっても女性は随分優位な地位に立つと言うのだ。
当然だが現世でも男女が揃わなければ子は成せない。
その為後継ぎを求める商屋や農家の男達は、ここぞとばかりに己をアピールするのだそうだ。
『大変ですね。彼らも……彼女達も』
「そうやね」
繋がれていた手にぎゅっと力が入ってしまう、私の握力は鬱様にも伝わっただろう。
彼はそれに対し何か言及するでもなく優しく握り返すに留めてくれた。
女性の結婚年齢というのは前世とそう変わりないが、結婚率というのは実に90％を超えている。
倫理を無視した言葉を使えば、女性が生涯に産める数には限度がある。
貴重な身体を使わせない手はない、という世論の結果だった。
身分の違いはともあれ、皆それぞれ苦労があるのだと私は勝手な同情心が芽生えていた。
ラッキーゲーム
hoi
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1295人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奥山乃愛(プロフ) - niさんやsnさんにも愛されたいです（恋愛的に）無理せずに頑張ってくださいね！ (2022年11月2日 16時) (
レス) id: fdc1778b4b (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - モモさん» お祝いのコメント感謝申し上げます。途中更新期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。ご期待に添えたものであれば幸いです、これからも是非にお付き合いくださいませ。 (2019年11月30日 23時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
モモ(プロフ) - 続編おめでとうございます。リクエストの小説も楽しく読ませて頂きました。ありがとうございますm(_ _)m相変わらず言葉の言い回しが美しく素晴らしい作品だなぁと改めて思いました。冬は何かと忙しい時期になると思いますが、無理をしない程度に頑張って下さい(*^^*) (2019年11月28日 12時) (レス) id: 9f311d580c (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 猫夢さん» こんばんは、好きの一言が何より嬉しいので無問題です…。ありがとうございます。 (2019年11月24日 19時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
猫夢(プロフ) - 語彙力がないけど言いたいので失礼致します。好きです... (2019年11月21日 13時) (レス) id: e485f856c4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あん肝ポン酢丸 | 作成日時：2019年9月22日 15時
