□特別講義は屋上で【番外】 ページ48
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『あら、エーミール様』
「Aご令嬢、こんな時間にどうしたんですか?」
時計の針が真上で重なる少し前の時間。
どうも寝つきが悪く書庫から本を一冊拝借しようと部屋を出ると、暗い廊下で参謀長様と鉢合わせた。
『なんだか目が冴えてしまって……本を借りに』
「えっと、言いづらいのですが書庫はもう施錠されてしまっているかと」
『あっ』
完全に失念していた。
城内の書庫が管理が厳重になされてる事など当然だというのに、何故行けると思ったのか。
アホな所を見られてしまった羞恥からじわりと頬が熱くなるのを感じた。
今が夜で良かった、この暗闇では顔色などわからないだろう。
「……眠れないのであれば少し付き合って下さいませんか?」
『?』
「Aご令嬢、どうぞ。熱いですから気をつけて』
『ありがとうございます』
何処かへ行っていたエーミール様が、湯気の立つココアを手渡してくれた。
暗いからと手を引かれ訪れた先には、城の上階にある屋上のような場所。
そこにはロックチェアが2つと小さめな卓が1つ置いてあるのみであった。
『エーミール様、上着をお返し致します』
「あぁ、飲み物のついでに自分の分も持ってきたから大丈夫ですよ」
言われてみれば彼は私が借りた物と似たコートを羽織っているようだ。
寒いからと着せられた上着、元々外へ出る予定だったのだろうか。
「今日は星がよく見える日なんだそうです」
『お詳しいのですね』
「聞き齧った程度ですがね」
少し照れたように笑いを零した彼と横に並んで座る。
受け取ったココアに口をつけると、優しい甘さが身に染みる。
「5等星までは見えますね、星座も随分鮮明です」
『今の時期だとオリオン座が有名ですね?』
「えぇ、ペテルギウスが……」
知識の浅い私に呆れるでも無く1つずつ指差しながら説明してくれる。
誰もが寝静まった夜の城は、優しく指南する彼の声しか聞こえない。
『そういえば、エーミール様はどうして廊下に?』
「それは……その、星を見ながら一服しようかと」
『そうでしたか。私に構わずお吸いになって下さいね』
私の前で煙草を吸う事を躊躇う傾向にある彼に告げれば、ふっと息だけで笑うエーミール様。
仄かなランプの光に照らされたその横顔があまりに綺麗で、己の心臓がドキリと跳ねたのを感じた。
「いえ、いいんです…。既に別のもので胸がいっぱいなので」
『!』
その言葉がどんな意味を含むのか、知るのはまだ先の事だ。
ラッキーゲーム
hoi
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奥山乃愛(プロフ) - niさんやsnさんにも愛されたいです(恋愛的に)無理せずに頑張ってくださいね! (2022年11月2日 16時) (レス) id: fdc1778b4b (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - モモさん» お祝いのコメント感謝申し上げます。途中更新期間が空いてしまい申し訳ありませんでした。ご期待に添えたものであれば幸いです、これからも是非にお付き合いくださいませ。 (2019年11月30日 23時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
モモ(プロフ) - 続編おめでとうございます。リクエストの小説も楽しく読ませて頂きました。ありがとうございますm(_ _)m相変わらず言葉の言い回しが美しく素晴らしい作品だなぁと改めて思いました。冬は何かと忙しい時期になると思いますが、無理をしない程度に頑張って下さい(*^^*) (2019年11月28日 12時) (レス) id: 9f311d580c (このIDを非表示/違反報告)
あん肝ポン酢丸(プロフ) - 猫夢さん» こんばんは、好きの一言が何より嬉しいので無問題です…。ありがとうございます。 (2019年11月24日 19時) (レス) id: 6a4a4e6549 (このIDを非表示/違反報告)
猫夢(プロフ) - 語彙力がないけど言いたいので失礼致します。好きです... (2019年11月21日 13時) (レス) id: e485f856c4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あん肝ポン酢丸 | 作成日時:2019年9月22日 15時