36話 ページ36
ちょっとだけ、いやかなり雅が可哀想だなって思った。
あんなに頑張ってアピールしているのに。
けど。
あんなに幸せそうな顔していたし、いいのかな。
秋特有の高い青空をただ見上げながら、そうやって考えを巡らせる。
風が葉を揺らし、私の元へやってきて肌を掠める。
少し冷たいと感じた。
「……このまま、二人でどっか行ってみる?」
「は」
思わず出た言葉に、自分でも驚いている。
威圧するような「は?」じゃなくて。
本当に、気が抜けたような「は」
そんな私の反応を見て、晴は酷く焦ったように、ころっと表情を変えた。
「あ、違う。変な意味じゃなくて」
途切れ途切れに、晴は言葉を続ける。
その姿は、いつもの君と重ならなかった。
一言でいうなら、新鮮。
「雅たちを、二人きりにさせるために、ってこと」
ちょっぴり気まずそうに、ほんのり頬を朱に染めた晴のその言葉は、私の胸に矢を突き刺した。
痛い、じゃなくて。嬉しい、の矢を。
満たされる。
好き、という感情が胸一杯に広がって、私の心を満たしていく。
次第に身体中すべてに行き渡って、暖かくなる。
心も、身体も。全部。
返事は考えることなく、簡単に口から出ていた。
私が言ったのに、私が言ってないみたいに自然と。知らないうちに。
「うん、いいよ」
すると、晴の顔はいつもの憎たらしい、けど何処か優しさがある笑顔へと変わる。
その表情の変化すら、意識しなければマジマジと見てしまう。
自分は、どれほど晴に惚れ込んでいるんだろうか。
(どうでもいいか)
今は、気にしなくてもいいか。だって今だけは。二人だけの時は。
晴は私のことを見てくれているから。
隣で晴の言葉が聞こえる。どっかって、どこにしようかって。
無計画のところも、別に気にならない。
恋は盲目。
うん、その通りな気がする。嫌なところが目につかない程、好きなんだもの。
全部が好きって、言っていいくらいだ。
全部が好きだなんて、馬鹿みたいって言われるかもしれない。
自分でも馬鹿みたいって思う。
「その辺り散歩するぐらいでも、充分時間潰せると思うけど。あんまり遠く行きすぎてもあれだし」
「それもそうか」
好きだ。やっぱ晴のこと、好きだ。
でもこれ以上は考えちゃいけない。
本能が、私の心が、言っている。
取り返しのつかないこと、しそうになる。
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フルーツちょこ(プロフ) - コノハ【心葉】さん» ありがとうございます。本日全話修正をして誤字脱字や、文章の訂正をしましたので、もう一度読んでくださると嬉しいです。 (2018年11月30日 19時) (レス) id: fddb009284 (このIDを非表示/違反報告)
コノハ【心葉】 - 楽しみです! (2018年11月30日 18時) (レス) id: 17d56b6dae (このIDを非表示/違反報告)
フルーツちょこ(プロフ) - 水瀬さん» 楽しみと言っていただけてありがとうございます。私も更新頑張りますので、これからの物語もどうぞお楽しみに下さい。 (2018年10月23日 15時) (レス) id: fddb009284 (このIDを非表示/違反報告)
水瀬(プロフ) - お話とても面白いです!続きもすごく楽しみになりました!更新頑張ってくださいね! (2018年10月20日 16時) (レス) id: db4b643399 (このIDを非表示/違反報告)
フルーツちょこ(プロフ) - 抹茶モナカさん» 応援のメッセージありがとうございます。最近学業が忙しいため、更新をあまり出来ていませんが、近いうちにもう一話更新したいと思います。コメントありがとうございました。 (2018年10月12日 15時) (レス) id: fddb009284 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みくるみちょこ | 作成日時:2018年6月3日 20時