八十皿目 ページ31
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「お待たせしました。」
がしゃん、と音を立て彼女とそいつの間に
コーヒーを置く。
「……ありがとうございます。些か置くにしては
乱暴だと感じましたが。」
「いえいえ。嫌がっている女性に無理やり迫る方
にはこれくらいが丁度いいかと。」
「それは貴方が勝手に感じていることでしょう？
彼女とやり取りしているのは私なので。」
「相手が嫌がっているかすら分からないと。
それならもう会話するのも近付くのも目に映すのも金輪際辞めたらいかがですか？目の前で下手なナンパ擬きを見せられても迷惑ですし。
何より、Aが不快な思いをしているなんて、僕が許せないので。」
沖矢昴がAの手に触れようとした時、彼女はもう片方の手を�爛侫�ーク�瓩某�ばしていた。
そして僅かに瞳孔の開いた目。
＿＿もしあの時遮らなければ、確実に彼女は隣の男を突き刺すつもりだっただろう。
それが、自分に不躾に触れようとしていた手なのか、それとも心臓か。全く違う場所なのかは分からないが。
沖矢昴が怪我をしようがどうでもいい。
けれど彼女が人を傷付けるところなんて見たくない。そんな身勝手な理由からだった。
フォークに手を伸ばしていたのには、僕以外には
誰も気付いていないようだった。それでいい。
「A。」
ピク、と華奢な肩が跳ねる。
そんな彼女の頭をゆっくり撫でた。
必死に周りを警戒し威嚇する小動物を宥めるように。
「A、実はこの間綺麗な景色が見える穴場を見つけたんです。良かったらこの後一緒に見に行きませんか？」
ふわり、と警戒を解くように微笑む。
今の状況で彼女を誘えば彼らの疑いが深くなる？そんなこと知るか。勝手に疑ってろ。
それよりも不安そうに瞳を揺らす彼女のケアの方が大事だ。
彼女のことだ。彼らに疑われたり沖矢昴を刺そうとしていた自分に驚き怯えている訳では無いだろう。
気に入った人間以外はどうでもいいようだからな。
だから彼女が怯えているのは。
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作者名：瑠璃 | 作成日時：2022年2月28日 21時
