【QKBL】苦くてあまい非日常は___

ふわふわマシュマロ、甘い夢［地理×東工大］ ページ7

みんなが帰宅した後のオフィス。時計の短針は10を指している。
「はい、どうぞ」
他のことには目もくれず、パソコンと睨めっこをしている我らが社長であり編集長へ、マグカップを差し出した。自分も伊沢の隣に腰かける。
「ん？ありがとうございます......マシュマロ？」
「そうそう、糖分摂ってもらおうと思って砂糖入れようとしたら、切らしちゃってて」
コーヒーの上にはぷかぷかと白い球体が揺れている。誰かしらが置いていったらしいマシュマロを砂糖代わりに浮かべたのだ。

「あんまり根詰めすぎないでね？」
ここ数日オフィスに泊まり込みで仕事をこなす伊沢が心配だった。
伊沢はマシュマロ入りコーヒーに口をつけながら、こくりと頷く。
「片付けておきたいのは今日で終わるんで明日には帰るつもりですよ」
「本当...？」
「本当ですよ」
僕の心配を汲み取ったのか、まあでも、心配掛けててすみませんね、と小声で呟きながらこちらを一瞥する。
「そう思ってるならもう少し自分を労わって欲しいなぁ」
「悪かったですって」
「手伝えるものがあるなら遠慮なく仕事振ってね」
「...ありがとうございます」
「うん。恋人には、元気に健康でいて欲しいし」

───ね？と顔を覗き込めば、肩をすくめてはいはいとあしらわれる。
これはあんまり届いてないかなぁと苦笑すれば、伊沢はじゃあ、と言いながらパソコンから手を離し、コーヒーを一気飲み。マグカップを空にした。
「遠慮なく頼ろうかな！」
と言い、横になり頭を僕の太ももへ預けた。いわゆる膝枕。そして目を閉じてしまった。
ちょっと不器用な甘え方。人のことを甘やかすのは得意なくせに、自分が甘えるのは下手くそなこの人が、たまらなく愛おしい。

仕事モードからガラリと甘い雰囲気へ変わる。もう編集長兼社長とプロデューサーの時間はおしまい。ここからはただの恋人同士の時間。このひとときを邪魔するものは、ここには何もない。
「えぇ〜、寝るのー？」
と笑い混じりに問いかければ、「寝る。」と即答。
「しょうがないなぁー。...お疲れ様、おやすみ」
ぽんぽん、と頭を撫でる。もう寝息が聞こえてきて、相当疲れが溜まっていたことがうかがえた。


今だけは、ゆっくり休めますように。

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