春の花嫁 (ページ7)

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第6話ページ7

『二宮君は……』

二宮「そうじゃない。かずって呼んでよ」

『か、かずなり君は…』

二宮「はあ……頑固者。そう呼ばれるの、あんまり好きじゃないんだけど…」

暗い夜道、偶然図書館からの帰路が同じだった私たちは静かな闇に溶け込みながら歩いていた。

時刻は8時。

冷え込んできたせいか、和也はくしゅんっと小さなくしゃみをした。

『大丈夫？』

二宮「ん、平気」

『最近夜寒いからね…家まで送っていくよ。家はどこ？』

私が何気なく聞いた質問がダメだったのか、彼は急に立ちどまり眉間にシワを寄せてこちらを凝視した。

二宮「は…アンタ、家までついて来んの？」

『ついて来るって言うか…さすがに君、学生でしょ？子供を一人で夜道を歩かせられないよ』

二宮「ガキじゃねえし……なに、さっきみたいに虐められそうだから？」

『いや、そういう訳じゃ…』

・

二宮「俺が、弱そうに見えたから？」

・

思わず固唾を飲む。

彼の瞳は確かに私を捉えているはずなのに。

私を見ていない気がして。

私じゃなくて、何か、違う……。

縋る様な、痛いほど真っ直ぐな瞳。

何故か私は逃げるように俯いてしまった。

二宮「俯くってことは……ね？」

『ち、違う！』

二宮「いや、いい。……分かってたから」

違う……本当に違う。

そう言いたいのに、言葉が喉につっかえて上手く話せない。

和也は寂しげに、静かに微笑んだ。

ふっと吹きかければ、今にも消えそうなくらいか細いろうそくの火のようで。

目を離せばどこかへ消えていってしまいそうな彼を、見過ごしてはいけない気がして。

思わず、反射的に彼の冷たく白い両手を握っていた。

『ごめんね、ごめんなさい……』

二宮「………ねえ、二つ聞いていい？まず、さっきは何で俺を庇ったの？」

『…分からない、反射的で……嫌な過去と重なって…それで…』

二宮「……」

『でも、何でだろう…助けなきゃって思ったのは本当。困っている人を見たら、つい、助けちゃって……それが癖で…』

二宮「うん……もういいよ、分かったから。あと、二つ目」

・

二宮「俺のこと、覚えてる？………A」

・

今夜の風は、私の肌を突き刺すくらい。

酷く痛く、冷たく感じた。