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「ちゃんと温まってきたか?」
シャワーから戻った俺を見て
置いてある二人掛けのソファに
ゆったりと脚を組んで座り
頬づえをついたまま言う。
「そんなとこに突っ立ってないで座りな。
髪から乾かすぞ」
その手には真っ白なタオル。
テーブルの上には救急箱。
隣に座ると
俺の頭にふわっとタオルを被せ
わしゃわしゃと拭き始めた。
「またケンカしてきたのか」
「…悪ぃかよ」
「いや、別に。
ケンカすること自体を責めてるわけじゃない。
ただ、自分の身体はもう少し大事にしな」
痛いだろう?と、
髪を乾かす手を止め口元の傷を指さす。
まるで、自分自身が
ケガでもしたかのような顔して。
「お前がケガしたわけじゃねぇだろ」
「あんた、何もわかってないな。
考えてみな?自分が惚れた女がケガして帰ってきたら
相良はどう思う?普通心配するだろう?
そういうことだよ」
それが
俺がケンカして帰ってくる度
不機嫌になる理由。
さっきと変わらず仏頂面のまま
今度は傷の手当てをし始めた。
てきぱきとよく働く細い指。
不機嫌に歪んだ眉。
“心配するだろう?”
そんなこと、初めて言われた。
やっぱり
「…調子狂う」
口元を消毒している手首を掴み
そのまま首筋に顔をうずめる。
俺は
何で
ガラにもなく泣きそうになってんだ。
「今日はいつも以上に甘えたさんだな」
「…ああ」
「珍しいこともあるものだ」
柔らかな甘い匂いと
俺の背中で
とんとんと規則正しくリズムを刻む手。
いつも以上に優しい声。
自分でも驚くくれぇに
素直に人に甘えたのは
いつぶりだろうか。
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作者名:櫻子 | 作成日時:2020年6月21日 23時