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「…はい、消せましたよ。」
「っあ、ありが、と…」
カタン、という音と共に目の前の彼が黒板消しを置いて私から離れたあと、パンパンと手に付いたチョークを払う。夕焼けに照らされたその様子はなんとも様になっており、ほんの一瞬見惚れてしまった。
(…なに、緊張してるのよ、私。)
男の人に耐性があるといえばあまりない方の部類に入る私は、こんな些細なことで心臓がどくどくと早い音を立ててしまうようで。
なんだか暑くてパタパタと手で顔を扇ぐ。なんだか私らしくないな、なんて考えが頭の中を飛び交っていると、私の乱心の原因である彼からあの、と控えめに声をかけられた。
「っはい、!…ど、うかした?」
「あ、いや…聞きたい、ことがあって。」
「聞きたい、こと?なんかわからないことでもあった?」
「……あの、俺、正直体育祭で仕事、できるかわかんなくて。」
体育祭の仕事といえば、テントの下で傷病者の簡易的な対応をするくらいという他の委員会よりも圧倒的に楽な仕事の部類に入るそれが、できない。
純粋に疑問を持って、なんでか理由を聞いてもいい?と彼に問う。グロテスクになった患部を見たくないとか?
それだったらこんなにでかい図体の癖にグロテスクなものが嫌いなのかと思うと失礼ながら少しだけ『ギャップ』というものを感じてしまうかもしれないが、まぁ人には得手不得手があるためしょうがないだろう。
「なるほどね…差し支えないなら、聞かせてもらってもいい?」
「…………させちゃわないかって。」
「え?」
「…俺、力強すぎて…怪我した人とか、更に怪我させちゃわないかって…」
『力が強すぎて更に怪我させちゃわないか』
頭の中で木魚がぽくぽくと音を立てている様な気がする。
彼に言われたことをようやっと理解すると、それはとんでもなく笑えるものだとわかり、思わずプッと吹き出してしまった。
「あはははっ…!!怪我させちゃわないか、って…!!!面白すぎでしょ…!」
「ちょ、笑わないでくれます!!??割と俺本当に心配してるんですよ!?」
「ごめっ…!!っあははっ…!」
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ちょこれーと(プロフ) - とりあえず新作がこんな早く見られると思ってなくて、嬉しいです!しかもkgmだって!?作者様のペースで頑張ってください!応援してます!! (5月8日 18時) (レス) id: 3d98585397 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:よる | 作成日時:2023年5月7日 23時