【３年A組】雨のち晴れ Ⅱ (ページ25)

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『……ぇ、甲斐くん……？』

ひゅっと喉が絞まったように、声が掠れた。
苦しそうで、それでいて覚悟の据わった瞳に、ゴクリと唾を呑み込む。
彼はボクに視線を向けることなく、即座にボクの口を両手でそっと覆ってから、まっすぐにセンセイの方を見返した。

「俺が里見に動画を撮らせた」

「オイ甲斐、お前いくらなんでもそんな嘘――」
「――嘘じゃねぇよ」

信じられないと言った様子の石倉が、甲斐の話に割って入るも、彼は冗談を言った風を装ったわけでもなく、真顔で石倉の言葉を一刀両断した。

「里見が景山にフラれたって聞いて、話を持ち掛けた」

「まじかよ……」

「じゃあ、あんたがあたしの鞄に？」

「お前が景山を恨んでたことは知ってたからなぁ...」

石倉の呟きにも、宇佐美の言葉にも、彼は平然と言葉を連ねていった。

「じゃあ、今までの全部芝居だったのかよ!! オイッ!!!」

兵頭は殴りかからんばかりの勢いで、甲斐に詰め寄った。あまりの勢いに、甲斐の膝の上で抱えられたままのボクは、反射的にぎゅっと目を瞑った。……しかし、衝撃は甲斐にも、そしてボクにもいつまで経っても来ることはなく、石倉の制止の声と兵頭の嘆きにも似た声によって、ボクはそっと瞼を開いた。

「お前もッ……!! お前も、知ってたのかよッ!! 水無月ッ!!!!」

兵頭の言葉に、『え……』と不甲斐ない声が漏れる。動揺したのを悟られないように口をキュッと結んで、兵頭の顔を見遣れば、その顔は今にも泣きそうで、次いで視界に映ったのはそんな彼を必死に体を張ってとめる石倉の顔と、――その奥で口元にだけ笑みを浮かべるセンセイの姿だった。

ぞわりと悪寒が体内を駆け巡る。
目は笑っていないセンンセイの顔は、見方を変えれば甲斐を睨めつけているようにも見えた。そんな彼の庇護下に置かれているボクも、なんだか後ろめたい気持ちに駆られてしまい、思わず手首に嵌るリストバンドを握りしめた。

「騙される方が悪いんだよ。…………それに、コイツは何の関係もねぇ」

ふいに口元を覆っていた手が離れ、その両手はさりげなくボクの背を押した。
急に膝から降ろされたボクは、フラフラと石倉の腕を掴み、バランスを保つハメになる。驚きの声を上げつつも、彼は問題なさげにボクを支えてくれた。
振り返った先で目が合った甲斐は、ボクにだけわかるくらいに口元を緩ませて"大丈夫だ。安心しろ"といわんばかりに微笑みかけてくれた。

「……もういいだろ。俺達をここから出せ」

突き放された現実よりも今は、彼の優しすぎる心根に絶望した。