参拾弐【遅かれ早かれ】 ページ35
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「レイヤ、こっちで合ってる？」
走りながら質問するツボミ。
「合ってるけど速い！ 笠木が付いてけてねぇぞ！」
「え？」
ツボミはレイヤにそう言われて足を止める。振り返ると、そこにはレイヤの靴を履いて目を回している笠木の姿があった。
「ったく、浮かせて引っ張ってた俺の苦労も考えろ！ 体力馬鹿の足にそうずっとドーピングアイテム無しで付いていけると思うな！ ついでにコイツの腕も心配しろ！」
息を切らせながら叫ぶレイヤ。疲れと共に怒りも爆発している。
「お客さんってついでなの？」
「お前が言うな」
ツボミの突っ込みにさらに突っ込むレイヤ。しかしそれで会話は終わった。
ツボミは笠木を背負うと、一方的にレイヤに言った。
「これなら大丈夫！ 行くよ、レイヤ！」
再び高速で走り出すツボミ。レイヤは何も言えず走るしかなかった。
＊・＊・＊
駅を飛び出してから約5分。
迷路のように入り組んだ裏路地を通り、辿り着いたのは木製のドアノブが無い扉の前。
ツボミは器用にも笠木を背負ったまま扉を蹴り開け……破壊した。
「出てきなさい、傘泥棒！」
粉々になった扉の向こうは、路地と同じコンクリート敷きの道。人の気配は全く無い。
「嘘っ！」
「落ち着け。座標はここで合ってる。遅かれ早かれ向こうは来るしかねぇよ」
レイヤがそう言った次の瞬間、突然景色が揺らいだ。どうやら元凶が現れるらしい。ちょうどその時笠木も目を覚まし、何が起きているのか分からないという顔で叫んだ。
「な、何これ!?」
「落ち着いてください、ただのワープですよ」
「あぁ、ただの……って、えぇっ!?」
笠置から見れば、この2人は異常者にしか見えないだろうが、当の本人たちは真剣そのもの。依頼一つ一つにあやしやの進退が掛かっているのだから、言うまでもないが。
景色の揺らぎが収まり、彼らがいたのは四方を布のようなもので囲まれた箱の中だった。
「ハァ、折角人が静かに暮らしていたのに、何なのだ」
不機嫌そうに3人に向かってきたのはふわふわと漂うコンビニのビニール傘に目と口を付けたような見た目の怨霊。
「私の邪魔をしたのだ。大人しくここで散れ」
どうやら戦闘は不可避らしい。
「ツボミ、笠木をこっちに渡せ。戦闘は任せた」
「OKレイヤ。サクッと終わらせるね
カモンゴースト、紅葉！」
ウォッチから飛び出してきた紅葉は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
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