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その声は知っているような、知らないような。もう何年も前の記憶にあるような気がした。けれどそれは同時に思い出したくもないことなのだ。
いや本当はこのことをずっと引きずって生きなければいけないのかもしれない。私に課せられた枷なのだ。
「おい、大丈夫か?」
「セノ…さ、私……っ」
「それは見せられている幻覚だ。俺の目を見ろ」
途端に私の両手を、温もりのある小さき骨ばった手が包んだ。握った覚えのある、安心感のある手だ。
蘇った過去が滲むように消え、現実へ戻された。震える肩をセノさんが優しく触れてくれて。
「…嫌なものを見たんだな」
眉尻を少し下げて、私の顔色を伺うセノさん。もうこれ以上迷惑を掛けたくないと思っているのに。それでもセノさんに縋りついてしまうのだ。
気持ちが落ち着いてきて、「もう大丈夫です」と彼から離れると、アシパキさんも漸く合流した。
「魔物は全員倒した。だが…」
「……?」
「本隊ではないようだ」
怪訝そうな顔に手を添えるセノさんが、ふとある考えに至ったように顔を上げた。そしてアシパキさんに申し訳ない旨を伝えた後、私の手を引きながら。
「アアル村が危ない」
( ………え。 )
声すら出なかった。
呆然とした私を、セノさんは引っ張ってくれる。
( また私のせいでみんなが……? )
セノさんは無言で、何も話さずその俊足でアアル村を目指す。
「…………」
「…皆!」
アアル村は大惨事になっていた。
屋根は吹き飛び、飾られていた花は散り、村の皆も、守衛の人たちも、エルマイト旅団の方々も重症を負っていた。そんな中、村唯一の医者であるマルフさんやキャンディスをはじめ軽傷の方が手当てを行っている状況である。
「Aさんにセノさん!引き返して来たのですか?」
「こちらにも魔物の襲撃があった。一先ず治療を手伝う」
「助かります」
私とセノさんも加わり、怪我を負っている皆を手当てをしていく。自責の念に駆られる中で、今は精一杯手を動かした。
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咲原(プロフ) - まるさん» 読んでくださり光栄です。。!ありがとうございます(˶' ᵕ ' ˶)! (8月13日 12時) (レス) id: 2d2082fe5f (このIDを非表示/違反報告)
まる - 最高でした!!お疲れ様です! (8月13日 6時) (レス) @page48 id: 626fa9ab7b (このIDを非表示/違反報告)
咲原(プロフ) - あいうさん» ご覧頂きありがとうございます!元ゲームの雰囲気を壊さずに慎重に書いていましたのでそう言っていただき光栄です……!自分らしく執筆を頑張りますね! (2023年2月21日 16時) (レス) id: 2d2082fe5f (このIDを非表示/違反報告)
あいう - セノの小説あまり無かったのでめっちゃ嬉しいです!話しも自然ですごいです。めっちゃ好きです。自分のペースで更新頑張って下さい!応援してます!! (2023年2月20日 1時) (レス) id: 914ffe60d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲原 | 作成日時:2023年1月19日 12時