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「ここで暮らすんだね」
樹「…いや？」
「ううん、そうじゃないけど」
樹「けど？」
小さく電車の音が聞こえる。
誰かを降ろして、その分乗せて、進んでいく。
「樹といるのが信じられない」
だって、出会った時の私は酷かったでしょ。
歩けないし、笑わないし、。
樹が私と過ごしてきてくれた5年間は奇跡だから、
今こうして樹が私と生きているのか信じられない。
「こういう気持ちを幸せって呼んでいいのかな」
この家で、樹と過ごす。
朝、樹におはようを言って。
夜、樹におかえりと言って。
寝るときにはおやすみと言える。
そんな毎日が、奇跡じゃないわけがない。
「今日から、よろしくお願いします。」
かしこまってお辞儀をしてみた。
すると樹は私から奪ったオレンジジュースを私の首に当ててきて。
思わず悲鳴を上げた私を見て、ニカっと笑った。
それだけで、私はもう幸せだった。
樹「俺思ったんだけどさ、」
「なに？」
樹「…電車好きになるよな」
「え？」
樹「ほら、窓からすぐ見えるから」
窓の外に目をやりながら樹は優しい顔をした。
樹「俺らの子どもはきっと電車に夢中になるよ」
「っ、！」
樹「俺は家から駅が遠かったから、小さい頃は電車には顔がついてるんだと思ってたけど」
ソファに座りなおしてまたリラックスする樹。
なんでもない顔をしながらも
家族になった私に、そんな希望を持たせてくれる。
そのあといきなりかしこまって
『こちらこそ、よろしくお願いします』
なんて、頭を下げてきたから
オレンジジュースを樹に当ててやり返した。
来ることを覚悟していた様子の樹は
当たった瞬間ピクッとしたけれど、
顔を上げてバツの悪そうな顔で
『…もう、そんな冷たくねぇ』
って苦笑いするもんだから、
おかしくなって二人して笑った。
樹「あ、そうだ」
「なに？まだあるの？」
樹「たくさんあるけど一個だけ」
「ん？」
これからの私たちは、どんな毎日を過ごすだろうか。
喧嘩もするかな。家出もするかな。
買い物には着いてきそうだな。
一緒に歯磨きもするのかな。
樹「この家、俺の為に選んでくれてありがとう」
「ぇ、」
樹「ここなら、ギリギリまでAといられる」
私にできる唯一の気遣いに、
あっという間に気づいてしまう樹だけど
私たちのこれからは きっと 優しい。
end
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作者名：ひじり
| 作成日時：2020年7月5日 18時
