番外編/ ページ49
・
ドアを開けると、君はいなかった。
絶対いると思ったのに。
中に入ると、いつもの景色に安心する。
窓側にある椅子にきょもがいつも座ってて、
俺は地べたかそこらへんの椅子に座って過ごしてた。
きょもの座る椅子に、そっと腰を下ろしてみる。
そこから見える外の景色は、
思っていたより、沢山のものが見えた。
校庭も、門も、昇降口も、体育館も、
俺が初めて君を見つけた教室も。
…あの日、受験の面接をした日。
ここにいたきょもを偶然見つけた。
あの時から、ここは君の世界だった。
明日からきょもはいなくなる。
この場所を残して、来れなくなる。
笑えない程度には寂しいけど、
きょもとの絆が切れていないからか、
絶望するほどの虚無感はなかった。
それでも、ここは俺ときょもの大切な場所。
思い出深くて、離れがたい。
ここで見てきた沢山の君を
窓の外を眺めながら思い返した。
・
＿＿＿ ガラガラと、音が聞こえる。
ボーッとしていても聞こえるその音に、
無意識に振り返ってしまう。
…きょももいつも、こんな感じだったのかな。
扉の向こうには、胸ポケットに一輪の花を挿したきょもが立っていた。
俺を見つめたまま、中に入ろうとしない。
「…きょも、？」
「……、」
声をかけても、何も言わずに俺を見ている君は、
出会った日と変わらず、
透き通るほど綺麗なままで。
「…樹、」
その声も、その髪も、
言葉にならないほど優しかった。
「あのね、」
出会って二年。
今日でここを去る君は、
俺を見て、花が咲くように微笑んだ。
「…樹が好きです。」
それはまるで、あの日の俺と同じように。
場所もセリフも、反対なのに、
また俺は、
君に全てを奪われた。
・
end
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作者名：ひじり
| 作成日時：2020年11月1日 22時
