/番外編 ページ47
(本編からだいぶ時間が飛んでいます)
無駄に大きな体育館が、こんなにも活用される日は他にあるのだろうか。
卒業式。
舞台の方から卒業生の席があり、後ろにはその家族、さらにその後ろには俺たち二年。
在学生が卒業式に参加するのは珍しいみたいだけど、俺にとってはラッキーだった。
北斗の隣に腰を下ろし、10分後に始まる卒業に備える。
「…卒業、だって。」
「ね、」
「樹、途中で泣かないでよ。」
「ごめん、それは保証できない。」
そんな話をしているうちに、音楽がかかり、卒業生が入場してくる。拍手をしながら列に視線をやると、きょもが歩いてた。
…めんどくさそうな顔しないの。
なんだか参列した家族のような気持ちになって、入場の段階で目頭が熱くなったけど、
北斗に馬鹿にされそうな気がして耐えた。
クラスごとに卒業証書が渡されて、合唱がある。
それが終わると、卒業生代表のスピーチになった。
名前とともに立ち上がり、舞台上に上がったのは、ジェシー先輩。この学校で一番の有名人だし、最適な人選だろう。
「北斗、知ってた？」
小声でそう聞くと、静かに首を横に振る。
先輩は、胸ポケットから紙を取り出し、話し始めた。
よくある導入のセリフも、先輩が言うとそのまま意味が届くのは何故だろう。
優しいようでまっすぐなその声は、
悔しいけど、憧れた。
そして、手に持つ紙が閉ざされる。
まっすぐ前を向いたまま、
先輩はまた言葉を紡いだ。
「僕は、臆病です。
ずっと自分を偽って生きてきました。
流されるまま過ごした方が、
楽だと思っていたから。
でもそれが苦しいことなんだと
気づいた時にはもう遅くて、
全てに無気力で、息をするのも重く感じた。」
式典に合わせた内容じゃない。
でも、飾られた言葉よりずっと綺麗に聞こえた。
先輩は、ふっと笑うと息を吸う。
「ある人に、言われました。
”鬱陶しく感じるのも 人 なら、
愛おしく感じるのも 人 だよ“ と。
自分の世界を否定するのは失礼だと、
そう言われました。」
いつにも増して穏やかなその表情に、
ここにいる誰もが、惹かれていくのが分かる。
「俺はたまに、
尊敬してるだとか、目標だとか、
言ってもらうけど、
俺にとってはその人が目標で、憧れです。」
・
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作者名：ひじり
| 作成日時：2020年11月1日 22時
