/42 ページ44
side Jesse
「…もう大丈夫なの？」
図書室で一人、本を読んでいる君にそう問いかけながら、いつものように対面に腰を下ろす。
お尻はまだ少しだけ、暖かかった。
真っ黒で艶のある髪がほんの少し揺れて、その顔が俺を捉える。
「先輩、樹になにかしました？」
「え？別に何も」
「…嘘つくのやめてください。」
金曜日の放課後。図書室の一番奥のテーブルを、俺と君の二人で囲う。目の前で活字を追う青年は、年下とは思えないほど大人びていた。
「…北斗が苦しそうだったから。」
「…なにそれ。」
そのまんまだよ。苦しそうだったから。
「自分以外の人のことでも、
その人と同じくらい苦しめる北斗は
凄くかっこいいと思ったよ。」
俺のその言葉に、北斗は視線を上げた。
「…やっぱり、見てた？」
「うん。ごめんね。」
樹の話を聞きながら
樹より先に涙を流していたあの日の君は、
誰よりも綺麗でかっこよくて、
それでいて悔しかった。
「俺のことでも泣いてくれる？」
「樹とジェシーは違うから。
親友 と 先輩 じゃ違うでしょ。」
「だよねー。」
たまにくるジェシー呼びに動揺しているのがバレないように必死で平静を装う。
今度樹に本格的に相談しようと決めて、ひとまず俺は、北斗が泣いていない事実に安心した。
あの時、この人が泣いているのが
自分でもわからないけれど
自分のことのように辛かったから。
「…京本先輩はいいなって思った。」
「え？」
「樹も、先輩も、あの人には縁がある。
それだけ良い人なのは分かってるけど、
ほんのちょっと、…羨ましい。」
その言葉に、俺は思わず言いそうになる。
俺は君に惹かれていると。
でもそれは、まだ言えない。
自分を隠して、偽って生きてきた俺が、
北斗のように真っ直ぐになれるまでは。
北斗の手を、自信を持って取れるようになるまでは。
「まぁ俺は俺だから、自分を嫌いにならないようにだけ気をつけるけど、」
「…素敵な考えだね、」
「先輩は自分が無さすぎなんです。」
「自覚してるから攻撃しないで。」
この人は俺にとって眩しくて、
とても簡単に触れられる存在じゃない。
でもいつか、
俺が北斗にこの想いを伝えた時は、
誰かじゃなく、
自分のことで泣いてほしいと思うんだ。
そんな君の涙ならきっと、
俺も辛くならないと思うから。
そんな顔ならいつまでも、
見ていたいと思うから。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 364人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ひじり
| 作成日時：2020年11月1日 22時
