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Taiga side
「ただ俺が、樹に知っていて欲しいだけだけど。」
そう前置きをすると、樹は『聞かせて欲しい。』とだけ言って、準備室に入ってきた。真面目に話すから緊張しているのか、それとも樹といるからなのか、よく分からないまま、俺と君は向かい合った。
ここしばらく、この部屋でずっと考えてた。
そして、話そうと決めた。もしも樹がまた、この場所に来てくれたらの話だけど。
「…俺ね、恋するのが怖いんだ。」
俺の抱えてきた悩み。
「どんな気持ちが正解なのか分からなくて、
恋だと思った感情も、あっけなく否定された。」
どう思えば、それは恋愛と言えるのか。俺にはそれがどうしても分からないんだ。
「樹が入学する前、樹より先にこの場所を見つけた人がいて。たまに話すようになった。
見た目も環境も俺とは正反対のくせにどっか似ててさ、話すのが楽しかったんだ。」
対等に笑えることを、特別だと思った。
「しばらくしてそれを、恋 だと思った。」
でも、それは違ったみたい。
「そいつが言うには、恋は心が波みたいに忙しく動いて、周りが見えなくなるものだって。
そんな大それた感情を、そいつも、俺も、持てる気がしなかった。」
俺たちは、妙に感覚が似てたから。
『誰かに夢中になる感覚が分かんないや。』と、諦めたように話すあの表情を見て、俺も、分からなくなった。
「俺は、恋を間違えた。出来もしないのに憧れて焦って、答えを急いだだけだった。
でも、そんな時に、樹が現れたんだよ。」
いきなりドアが開いたと思ったら、出会って早々告白してきて。俺は心が疲れきってるっていうのに、どうしようもなくまっすぐな目で俺に 好きだ とぶつけてきた。
それからずっと、人としての何かが足りていない俺にいつも笑いかけてくれる樹が、いつか居なくなることが、怖かった。
「だから、樹から逃げた。」
「きょも…、」
「でも、」
樹と出会って、こんなに長い時間関わりがない事が無かったから、久しぶりの樹に多少の緊張を感じる。
でも、それよりもあの顔を見た瞬間に、どうしようもなく泣きたくなった。意味も無く安心して、意味も無く触れたくなった。
…こんな、こんな言葉を、伝えていいのだろうか。
俺の素直な自分の気持ちを、
喉がつっかえる感覚を押し殺して、息を吸った。
「でも…、樹が居ないのは、辛かった。」
これが、今の俺だった。
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作者名：ひじり
| 作成日時：2020年11月1日 22時
