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この人は全身で先輩が好きで。
全部で恋をして、もがいてる。

「分かってんのに、

　…っ、好きでたまんねぇんだ」

その表情は少なくとも子供の恋愛でするそれじゃなくて。

俺にとっても苦しいものだった。

樹の気持ちをずっと見てきた俺は
多分樹の半分くらいなら、その気持ちを分かってやれる。

もういいだろうか。

俺は、こいつの、親友だと、

思ってもいいだろうか。

「なっさけね、」

そう言いながら、唇を噛み締める樹と

同じように苦しんでもいいだろうか。

「っ…ばかだな。樹、」

そう言う俺を見て、樹は固まる。
さっきまで壊れそうだったくせに、呆気に取られたように驚いてる。

「北斗、お前…、」

「うっさいな、っ、
　誰のせいだよ、ばか」

「…、ばかは誰だよ」

泣きたいのは、絶対に樹の方なのに。

親友の涙を横取りした俺に、
樹は馬鹿だなと笑って見せた。

「俺の分まで泣くかよ。普通。」

「わり、」

そんな樹の顔になぜだか安心して
余計に泣けてくる。

「ちょ、涙、止まんない、」

「え、嘘だろ」

拭いても拭いても止まらない涙に慌てる俺が余程面白かったのか、

「はははっ、！なんだよそれ！
　北斗、！大丈夫か！落ち着け！」

久しぶりに、いつもの顔で笑った。

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