Sanctuary <Jesse×Hokuto> (ページ28)

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Jesse

『なんか凄い小説家が来るんだって』

この台詞のどこかに説得力があるというなら教えてほしい。食堂でカレーを食べながら、そんな友人の言葉を聞き流した。

聞き流した俺の代わりに、もう一人の友人が対応している。

「海外の小説家？」
「いや？日本人だったと思うけど、」
「俺らの学科関係なくね、」
「えー、でも有名人じゃんか。行こうよ！」
「俺小説読まないし…、」

その有名な小説家は、どうやら来週この大学で特別講義を開くらしい。参加は自由で、どの学科の生徒も受けられる。

「はぁ、どうするよジェシー。」
「うーん、そもそも来週のその時間テストだしね。」
「げ、そうじゃん！」
「どんまい。とりあえずお前はまず小説を買え。」

大学に入って二年も経つと、俺も随分この生活に慣れていた。

感じの良い友達と、自分で選んだ授業。
今までそれなりに生きてきて、それなりに経験して、
それなりに楽しみながら生きてきた。

だから、それで満足だった。
何か物足りないと感じてしまう自分がおかしいんだと、
この生活が十分幸せなんだと、言い聞かせていた。

＿＿＿講義が終わると、課題に向かう。

同じバイト先の友人はまだ授業が残っているから、
それまでの時間潰しだ。

図書室へ入ると、察神有のあの匂いがする。

本を読むのは得意じゃないけど、
この匂いは結構好きだったりして。

今日の昼の話題のせいか。

なんか読んでみようかな。…そんな気になった。

テーブルに荷物を置いて連なる棚の方へ向かう。

『文学』と書かれた場所へ進み、歩きながら本の背表紙を眺める。

いかにも難しそうな並びに、若干気後れしつつ、ここにある本を書いた方には申し訳ないが、適当に一つを選んだ。

ほんとに適当。ただの気まぐれだったんだ。

・

＿＿＿なのになんでだ。

…なんで、目が合うんだ。この状況で。

俺は今、本を取っただけなのに。

たまたま選んだ本の向こう側。

たかだか二・三センチの隙間から見えるその人を、
まるで惹きつけられるように見つけてしまった。

俺も、貴方も、

逸らさなかった。