Sanctuary <Jesse×Hokuto> (ページ27)

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若者の移動は本当に早いようで、もう講義室には誰もいない。大学教諭も俺に会釈だけして出て行ってしまった。

…どう見ても困ってるゲスト置いて去らないでよ。

「先生、質問いいですか。」

分かりやすくモテそうな容姿に、その瞳。
質問をしたいと言っているだけなのに、口説かれている気さえした。

「…質問、されるようなこと話してないんだけど、」
「先生、恋人はいますか？」
「……ん？」
「恋人じゃなくても、好きな人とか、」

ちょっと待て。俺。もしかしなくても口説かれているのでは。

「質問ってそれ？」
「…やっぱり、いきなりすぎました？」

ほんの少し凹んだように見えたその男は、
すぐにまた俺を見て、自己紹介を始めた。

「ジェシーです。」
「…うん。」
「あれ、驚かないんですか？一応ハーフなんですけど、」

話を聞いていると、ジェシーはどうやら俺のファンではないらしい。

『日本語って難しくて…、』と笑う彼に
二十万字の活字を読み切れるとは思えない。

気付けばジェシーは教卓近くの椅子に座り、俺との会話を楽しんでいた。

「どうして今日、ここに来たの？」
「どうしてって？」
「本が苦手なら興味ないんじゃないかと思って、」
「あぁ、それなら＿＿＿、」

しまった。彼はまたあの独特な空気を纏った。
この人のスイッチが分からない。

なんでかその瞳には既視感があった。

「＿＿＿、探してたの。先生を、」

全く意味が分からなかった。
その言葉の意図も、その視線も。

彼が子供だからとナメていたのが駄目だったのか
どうにも体が動かない。

「先生、」

突如現れた若者は

「先生の言葉は素敵でした。
　だからきっと、文字もそうなんだと思います。」

年相応の笑みを浮かべたと思ったら

「貴方の見る景色は、」

力を抜いて微笑む表情は艶やかで

「先生の生きる世界は、凄く綺麗なんだなと思いました。」

そのまま土足で、俺の世界に踏み込んだ。

「先生、って呼ばないで。」

「え？」

「小説家みたいじゃん。」

「小説家でしょ？」

「僕は文豪です。」

「…、なにがちがうの？」

「そもそも君の言葉には技術がない。」

「きびしいなー。
　あと一か月はまだ未成年なんですけど、」

「僕を口説くなら日本語の勉強からだね。」

「…そんなにダメだった、？」

これが俺の、俺と君との出逢いのお話＿＿＿。