明日，君のいない世界で。 (ページ33)

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Jesse

部屋に戻ると，北斗は寝ていた。
『疲れてたんだね。』と言う慎太郎に，俺は頷く。

ジ「そんな所じゃ体痛くしちゃうよ。」
慎「…きっと，少しでも感じていたいんだよ。」

俺のベッドに突っ伏すように眠る北斗。
そんな君が，やっぱり好きで。

膵臓がん。ステージ4。

腫瘍は動脈に接していて手術は出来ない。
放射線治療も希望は薄いと言われた。

そんな俺とでも，この人は一緒に生きていてくれる。

ジ「ここでいいです。ありがとう。」
慎「ぇ，大丈夫？」
ジ「うん。今は起こしたくないから。もう少し座ってる。」
慎「ちょっとでも辛くなったらすぐ呼んで。」
ジ「分かった。」

自分の手で車椅子を動かして，北斗のもとへ向かう。

北斗は普段眠りが浅くて，ちょっとした物音でも起きてしまうのに，今は起きる素振りすら無い。

閉じている目の下には隈が見える。
ろくに眠れていないんだろう。

ジ「北斗，」
北「……」

人は，いざという時は自分を優先するものだと思ってた。

ジ「…ちゃんと寝るんだよ。」

でも，違ったみたい。北斗はろくに寝ないで俺の傍から離れないし，俺も自分よりそんな北斗が心配でたまらない。

ジ「俺の分も，寝て。」

この人は，俺がいなくてもちゃんと生きれるのか。

ジ「何があっても，食べなきゃダメだよ。」

前の職場の影響か，北斗は自分に対する配慮が足りない時がある。君の限界に気付いてくれる人が，俺の他にいるのだろうか。

そんな北斗を残してしまうことが，情けなくて悔しくて。この人を，もう守れないという現実をどうしても受け入れたくなくて。

ジ「…俺が，いなくても，」

俺がいなくてもちゃんと生きて。と声に出す前にその願いは嗚咽に変わった。

ジ「……っ一人にさせちゃうね。」

出逢ったばかりの北斗を思い出す。
この世界にたった一人。孤独に呑まれてそこにいた。

それから二人で，ゆっくり歩いてきた。急いだわけでも，どこかでつまづいたわけでもない。ただ，俺たちのペースで生きてきた。

ジ「置いていったら、怒るよね、」

癌。末期。四ヶ月。

このままいけばあと三ヶ月も生きられない。

この現実にどうしたって抗えないことを分かっているのに，目の前のその寝顔を失いたくなくて，どうしようもなく苛立った。