明日，君のいない世界で。 (ページ32)

今日:15 hit、昨日:14 hit、合計:146,195 hit

【第三幕】一場ページ32

・

眠れない夜が続いた。

" 一緒に生きる " なんて威勢のいいこと言っておきながら，笑えるくらいに怯えている自分。

一人の夜を過ごすのも，夜が終わって朝が来るのも，怖かった。

北「…もう朝か。」

カーテンの隙間からぼんやりと差す光。
身体くらいは休まっていることを信じてベッドから出る。

" 北斗，行かないで。"

そう言って俺を腕の中に連れ戻す君はいない。
白い肌に，吸い付くように身を委ねる俺もいない。

・

最低限の準備を済ませて家を出る。
病院に着くと，そっとジェシーの病室へ向かった。

扉を開けるともう起きているジェシー。

北「おはよう。ジェシー。」
ジ「あ，おはよう北斗。」
北「起きてたんだ。」
ジ「うん。最近目覚めが良くてさ。北斗も早いね。」
北「俺も寝起きいいの。」

ジ「疲れてるだろうし，ゆっくり来ていいんだよ。」
北「今日は暇だったの。」
ジ「そっか。今日日曜日か。」
北「うん。世間は休日だよ。」

いつもより少しだけ小さな声でひそひそと話す俺たち。そんな時間は，楽しくて。

慎「お二人とも，おはようございます。」
北「ぁ，」
ジ「おはよう。慎太郎。」
慎「早すぎですって。面会開始まであと二時間もあるんですけど。」
ジ「ふふ，ごめんね。俺がお願いしたの。」

当たり前のように俺を庇うジェシーと，看護師の森本さん。
本格的に延命治療を始めたジェシーの担当で，二人はどうやら仲良しみたい。

ジ「あ，今日も元気です。」
慎「それは良かった！じゃあ体温と血圧と検血ね。」
ジ「…元気だってば。」
慎「ちゃんと診ないとダメなの。」

もう随分見慣れた景色だけど，注射を嫌がるジェシーはちょっと幼い。

北「ジェシー，文句言わない。」
ジ「…はい。」

そんな俺たちを見て笑う森本さん。俺たちを見て，何も変わらず笑いかけてくれるのは，この人が初めてで。
だから俺もジェシーも，この人が好きだったりする。

慎「よし。もう少ししたら検査ね。三十分もかからないと思うんで北斗さんここにいます？」
北「そうします。」
ジ「ごめん北斗。ちょっと待ってて。」
北「うん。検査頑張って。」

ジェシーが入院して一か月とちょっと。
病気の進行具合とか細かい所はよく分からない。

でも，検査に向かうのが
歩きから車椅子に代わって。

繋がれる管の数が
一本から二本に代わって。

数字で見える進行よりも，こういう変化が一番怖いんだ。