明日，君のいない世界で。 (ページ26)

今日:11 hit、昨日:14 hit、合計:146,191 hit

・ページ26

・

あの日，たまたま休みが重なって。
どうやって過ごそうかって，2人で話して。

どこに行こうかっていう話だけで盛り上がっちゃって，結局出かけるのがお昼少し前になってしまった。確かその日は車じゃなくて，電車を使ったんだっけ。

“ 俺さ，江ノ電好きなんだよね ”
“ 好きとか嫌いとか考えたことなかったわ ”
“ 江ノ電ってなんか可愛くない？”

民家のすれすれを通り抜ける江ノ電の中で，きょもは楽しそうにそう言っていた。
そこを少し進むと，桜が咲き誇っていて，2人で思わず声を上げてしまったことを思い出す。

薄いピンク色の花びらは，ちらちらと舞って窓ガラスにぶつかった。
それを儚げに見つめるきょもが，あんまりにも綺麗で怖くなったりもした。

らしくないことを言った気がする。
……離れないで，なんて。

振り向いたきょもは，いつも通りの優しい顔をしていて。
抱きしめたいのを堪えて，ちょっと笑いかけた。

“ 離れるわけないじゃん。センチメンタルになっちゃってさ ”

呆れたように，きょもはそう言ってくれた。

江ノ島で降りて，ご飯を食べてから水族館に行った。
イルカが見たいと思っていたのに，日中のイルカショーはもう終わっていて。

残念だったね，なんて言い合った。
きょもが少し落ち込んでいるのがなんだか可哀想で，俺のほうが悔しかった。

でも，ガイドマップを見たらレイトショーがあるって書いてあって。
それを見つけたきょもの嬉しそうな顔が忘れられない。
イルカが跳ねる様子を，きょもは本当に満ち足りた瞳で見つめていた。
その光景を見ていることが，俺の幸せで。

その日はイルカショーを見て水族館を出て，その後は2人でゆっくり浜辺を歩いた。

夕方の海を見つめながら，この人の手を離したくないって思ったのだった。