明日，君のいない世界で。 (ページ21)

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ジ「…北斗，ごめんね。」
北「ん，？」

悲しいのかそうでないのか。

微笑みを浮かべるジェシーの顔は，
俺には酷く儚く映った。

ジ「俺さ，癌なんだ。」
北「何言って…，」

ただの検査入院だと思っていた俺に，入院して四日が経ったこの日，ジェシーは突然零れ落ちるかのように告白したんだ。

その目はなんだか，あの時の俺と，重なって見えた。

ジェシーはいつもの口調でこう続ける。

ジ「膵臓だって。」
北「すい，ぞう…，」
ジ「うん。ずっと隠れてたみたい。」
北「でも膵臓の癌って，」
ジ「…はは，北斗は知ってるか。」

君が続けて言ったのは，俺への謝罪だった。

ジ「北斗，ほんとうにごめん。」

『癌』。それも『膵臓』。

何となくの知識の中でよぎる最悪の言葉に，頭がドクンと揺らぐ感覚。

北「…なんで，謝るの。」

そうだ。この人が謝る必要なんてない。
この人が申し訳なさそうな顔をする必要なんてないんだ。

北「謝らないでよ。だってまだ＿＿＿，」
ジ「＿＿＿末期なの。」
北「っ，！」

まだ治るかも，なんて言う希望はジェシーの手であっという間に閉ざされて。
代わりに君は俺に現実を突き付ける。

ジ「今度倒れたら，危ないって言われてた。」
北「…どういう，こと，」

さっきから訳の分からないジェシーの言葉に，止まらない心拍と，冷や汗なのか脂汗なのかも分からない嫌な汗。

ジ「ごめんね北斗。この前俺，倒れたの。」
北「……ぇ，」

ジェシーは尚も落ち着いた口調で続けた。

ジ「腰が痛くて，体がだるくて
　仕事中に倒れて病院に行ったら
　病気だって言われちゃった。」

北「そんな…，」
ジ「大丈夫だと思ってたんだけどな，」
北「それって…いつ，」
ジ「…二週間前。」

ある日突然ジェシーが酔い潰れて帰ってきた夜。
珍しく静かだった朝。
あれから極端に減った食欲。

すべて，ここ二週間の出来事だ。

膵臓の癌は発見されずらく，気付いた時にはもう手の施しようが無い事が多い。
それくらいの知識しか持っていないけど，知っているが故に信じられなかった。

いや，信じたくなかった。

この人が懸命に隠し続けた二週間に，
俺は呆気なく騙されていた。

俺だけが呑気に，呑気に君と生きていた。