明日，君のいない世界で。 (ページ18)

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ジ「なんか思い出しちゃってさ，」
北「…そうなんだ。」
ジ「窓際のカウンター。壁に面した一番端。
　北斗は，いつだってそこにいた。」

四年前。ジェシーが昔の話をするのは珍しかった。
今日は本当にどうしたんだろうか。

ジ「泣くわけでも，悲しそうなわけでもなくてさ。
　コーヒーが冷めてても気付かない人だった。
　ただそこで，一人でいる姿が気になって。」

昔を懐かしむように話し始めるその顔はまるで，恋をしていた。

ジ「孤独で，独りで，…抱きしめたくなった。」

この人の愛を知らなかった四年前の自分。
俺は本当に幸運だな。

ジ「…北斗，」

北「ん？」

ジ「多分俺ね，…北斗を見つけた日，
　一目ぼれしたんだよ。」

この人の心に触れられた俺は，本当に幸せ者なんだと思う。

ジ「…ちゃんと，守るから。」
北「ジェシー…，」
ジ「北斗は俺が守る。」

＿＿＿ "うん，美味しい！"

あの日，冷めきったコーヒーを俺の目の前で美味しそうに飲み干したジェシーを思い出す。代わりに渡されたココアの温かさも，その甘さも，全部。

一目ぼれなんて綺麗なものじゃない。でも，確かにあの時，俺は君に飲み込まれた。

北「…今日はほんとに変だね。」
ジ「変でもいいや。好きだからいい。」
北「じゃあ俺も一つだけ。」

やっぱり今日の君は明らかにおかしい。
だけど，君が俺ならきっと，何も聞かないはずだから。

北「今日はずっと一緒にいよう。」

だから，俺は何も聞かないよ。
ジェシーの優しさの真似事だけど，
俺は何も変わらず，君を好きでいる。

北「一緒にいて，一緒に寝よう。
　それで明日も，一緒に生きよう。」

ジェシーは俺のその言葉に，消えてしまいそうな程綺麗な笑顔で応えた。

北「よし，何しよっか。」
ジ「じゃあ，朝ごはんを食べよう。」
北「その前にコーヒーの電源を消す。」
ジ「あ，そうだっけ。」
北「もう…，慣れてないのに使うから。」
ジ「だって操作難しいんだもん。」

二人でキッチンに向かう。
その姿は今までと何も変わらない。
どこにでもいるありふれた恋人だった。

この時俺は，

君の異変に気が付きながらも
何も聞かないことが正解だと思ってた。

それが，正しいと思っていたんだ。