明日，君のいない世界で。 (ページ12)

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樹と付き合い始めたのは，大学2年生の夏だった。
学部も学科も違う彼と出会ったのは，大学内の学食だった。

“ 相席していい？ ”

低くて，でもどこか優しいその声に顔を上げたとき，目の前に立っていたのが樹だった。
髪の毛をピンクに染めていて，いかにも「陽キャ」のオーラを醸し出す彼に怯んだのを思い出す。

どうぞ，と告げると，向かい側に座った彼。

樹「名前は？」
大「大我。……京本大我です」

彼はフッと笑って，俺に右手を差し出した。
反射的にその手を握る。骨ばったその手は温かかった。

樹「俺は田中樹。樹木の樹，でじゅりって読むの」

綺麗な名前だ，と思う。今思えば，その瞬間からすでに彼に惹かれていたのかもしれない。

彼はその時，俺のことを「きょも」と呼んだ。京本だから，と。
そんなよくわからないニックネームも，なんだか嬉しかった。

それ以来，なぜか俺は樹と一緒にいる時間が増えた。
交換した連絡先。彼からメッセージが入るたびに，ちょっと胸がときめいた。

告白されたのは，冬休み。
2人で遊びに行った帰り道に，樹は意を決したように俺に向き直った。

樹「俺さ，好きなんだよね」
大「ん？」
樹「きょものこと」

時が止まったみたいだった。信じられなかった。
その頃には樹が何者かよく知っていて，自分の気持ちにも気づいていた。
…そして，彼がものすごく女の子にモテるのだということを悟っていたから。

樹「ごめん，気持ち悪いよね」

そんな風に，後悔するみたいに俯いた樹が愛おしくて。

大「全然。だって，俺も好きだもん。樹のこと」

彼は驚いたような顔を見せ，それから切なげに笑った。

樹「俺が言ってるのは，その…」
大「分かってる。俺も同じだよ。樹に恋してるから」

こんなに緊張したのは，あの時が初めてだったと思う。

“ 俺と付き合ってください ”

俺の方から，そう口に出したのだった。