シンデレラ (桃青)

ep.1 花火 ページ1

side.望








” ごめん、望、もう付き合えない ”







望「……はぁ、」






めちゃくちゃ楽しみにしとった
地域のでっかい花火大会。



浴衣着て髪整えて、
気合い入れて行ったら
長年連れ添った彼女に一瞬で振られてもうた。







……小瀧望。21歳。



ちょっとばかり有名な美容院で
新米美容師をしとる普通の会社員。



彼女はさっきおらんくなったし、
趣味も特技もこれといってない。






望「……っ、」






さっきからアイツの声が脳内で
何回も再生されて、もうパニック状態の俺。





なんで、





それなりに彼女とは上手くいっとったし、
結婚までちゃんと考えとった。



あまりにも呆気なさすぎる終わり方で、
自分でも状況が全く飲み込めへん。






望「……はぁ〜〜、」






せめて、せめて、
花火終わってからでも良かったんちゃう？



もうすぐ花火が上がるって
お客さんが増えてくるなかで
俺はもう家に帰らなあかんなんて。






たくさんの屋台を抜けながら
人の流れとは逆方向に進んどると、
みんなから邪魔そうな顔をされる。






望「……っ、ぁ、、すいませんっ、」






ボーッと歩いとると、前から来た男の人と
正面衝突してもうて、その人は
道の端っこの壁に勢いよくぶつかった。





……やっば、






望「……っ、ごめんなさい、大丈夫ですか？」







焦って俺も同じ目線でしゃがむと、
その人は下を見たまま動かへんくて。






望「……っ、え、」






よく見ると、壁にぶつかったせいで
その人の腕に擦り傷が出来てもうてた。







望「……え、ほんまごめんなさい、っ、」






どうしよう、って腕を取ると、
彼の体が傾いて俺に寄りかかる。







望「……え、」






近づいた彼の首筋から、
ふわんとバニラの甘い匂いがした。






……この人、熱あるんちゃう、？






触れた体は、多分やけどかなり熱がある。
そのせいか、聞こえる呼吸も荒かった。

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