再会は喜ぶもの ページ3
案外、死というものは随分身近にいる
生まれた時から隣にいるものだから、気づかぬうちに、それで呆気なく死は人を殺す
彼女はいつものように森に行く
夜の静けさに呑まれそうなしぼみ始めた桜を見あげて
そして気づく
あの日と同じように、この静けさに似つかわぬ物音
ぱき、ぽき、と枝をおるような音、伴うようにべちゃべちゃと泥を踏むような音。時折がりりと砂を噛んだような音
彼女はきっと誰かが歩いているのだろうと、そしてその誰かはあの人だろうと
胸を踊らせ音を追いかける
彼の特徴的な痣と、あまりみないくすんだ桜なような髪色を頭に浮かべて、楽しげにあるく
ようやくそこらに茂る草を通り抜けた頃
彼女は息を呑んだ
目前に広がる赤、赤、赤赤赤
今更気づいた鉄の匂い、音の正体は人であった肉塊を噛み砕く音で、食用になったそれは食べれぬ部位の髪や爪、骨が転がるだけだった
嬉々に満ち溢れた表情は一変、ひゅっ、と変に音を立てた喉元と共に目は見開かれ、口角は元に戻る
ふと彼女は食事をしている者をみる。待ち焦がれていたあのくすんだ桜色が、そこにあった
4本の腕を器用に使い、塊を口に放り込む様を棒のようにたったまま見つめていると、顔についた4つ目と目が合う
「今日は運がいいなぁ、真逆女が4人も食えるとは」
「さて、どうして食おうか?」
瞬く間に彼女の元へ移動した彼は口許を大きく釣り上げて笑った
追いつけなかった風が焦るように2人の体を通り過ぎて行った。彼女の黒い髪がパラパラと後ろに流れていく
眼前に迫る彼の顔と、酸化した血の香り
彼の口から滴るまだ赤い液
それらを息をしないまま呆然と見尽くした
「ふむ、顔は上々、肉付きは微妙だな。特に腕なんか骨と皮だ」
ぺたぺたと顔や腕、腹と体を触り、食べるところを探す彼
彼女の顔に彼の手から移った血がべとりと張り付く
それはゆっくり顎を伝い落ちると彼女は漸く行動を起こした
口から漏れる息はか細く音を作り、それは彼の耳にも入った
「なんだ、遺言か?聞いてやろう。今は気分がい…」
そこまで言って、顔を上げた彼は気づく
「何をそんなに笑っている。恐怖で頭がおかしくなったか?」
怪訝そうに顔を歪める彼だが、その予想は外れている
彼女は、歪に笑ったその口から熱い吐息を漏らして、その瞳は彼しか写していない
そして言う
「どうぞ、私めをお食べ下さい」
228人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「呪術廻戦」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
零(プロフ) - 続きが速く見たいです (2022年10月29日 18時) (レス) @page16 id: 730adcd2c0 (このIDを非表示/違反報告)
せつな(プロフ) - 面白くてすごく好きです! (2020年12月7日 0時) (レス) id: 1e50b81d3c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:れてぃ | 作成日時:2020年11月25日 22時