平凡で純情な ページ1
彼女は平々凡々な人間の女であった
特別秀でた才もなければ慈悲を貰えるほど可哀想な子でもない
ただ容姿の美しさは貴族とも負けず劣らずと言えた
庶民の出だが街に出ればたちまち人攫いに連れていかれ、どこぞに売られるのだろう
近所のばぁがそれを彼女に伝えれば
はて、そんなに美しいものかと水たまりに写った自分を見つめては、首を傾げていた
如何せん自身の真っ黒な髪が影を落とし境目が無くなっていたからである
さて、16になった彼女だが村中の若い男たちから持ちかけられた縁談を尽く断り、どこか上の空である
仕事も身に入らず、少ない麦を落としたり。ぽーっと空を見つめてはいつの間にか一日が経つ
原因は1年前の夜だったろうか
彼女は夜中にも関わらず家を飛び出した
同じようにして出てきた男はなにやら怒っては砂を蹴飛ばし土と草の田舎道へ去っていった
男は彼女の寝室に忍び込み…いわゆる夜這いである
男のそんな顔を知らない彼女は森へ逃げ出す
もう追ってきては居ないというのに、彼女は泣きながら、無我夢中で走った
とそこに、静かな森に似つかわぬ音が響く
湿った何かが裂かれるような
地面がえぐれたような
はっとして振り返ればそこには着物を着た男が1人
何事も無かったかのように佇んでいた
月明かりに照らされた横顔は、妙に色っぽく
顔に浮び上がる痣さえ羨ましく思えるほど
ぽつり
「つまらぬ」
と低い声を零してはそこを去っていった
彼女は、感じたことの無い胸の高揚感を感じていた
俗に言う一目惚れだった。
もう、会うことは無いだろうに
あれから幾度か森へ赴いたが彼の欠片すらも見当たらなかった
今日も、彼女はそこに居ぬ彼を考える
1年前の記憶を、昨日のように呼び起こしては
話したことも無い彼との恋を、妄想する
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零(プロフ) - 続きが速く見たいです (2022年10月29日 18時) (レス) @page16 id: 730adcd2c0 (このIDを非表示/違反報告)
せつな(プロフ) - 面白くてすごく好きです! (2020年12月7日 0時) (レス) id: 1e50b81d3c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れてぃ | 作成日時:2020年11月25日 22時