43枚目 ページ42
「ところで、本当にこの子を育てるんですか。よく中佐が許可しましたね」Aも実井の問いに同感する。「いや、許しはこれからなだよね」と言う甘利に本当に呆れて物も言えなくなる。「結城中佐のことだ、きっとこの事も分かってはいるんだろうがな」福本の言葉にそうであることを願った。食堂でエマを膝に抱えながら甘利の帰りを待つ。「そうしていると本当の母のようですね」からかいなのか先ほどからやけに母親だと口にする実井の言葉に「そうかしら」とシラを切る。ここで、もし仮に「そうね」だなんて言ってしまえば、そこからまた私の身の潔白を疑われる。
「Let’s study Japanese together. 」なるべく優しく聞こえるようにエマに言えば、「Okay」と愛くるしい笑顔で返してくれる。帰りがけに買った幼児向けの絵本を読み聞かせて「これはね、あれはね」と色々教えていく。甘利が結城中佐の執務室から帰ってくる頃には、ここに居るメンバーの名前を覚えていた。かみなが、たざき、ふくもと、じついと、とたどたどしいながらもちゃんと言えている。
ほんの心なしかエマの存在に大東亞文化協曾の空気が和む気がする。実井がここには本物の魔王が住んでいる。などと言いエマを怖がらせている。「子供に意地悪を言わないでください」口ではそう言いながらも、実際は否定はできなさそうだ。数刻はたったのだろうか甘利は食堂に帰ってきた。「あまりー、おかえりー」と駆け寄りながら教えられた挨拶をするエマの上達ぶりに甘利は感心してる。
「おかえりなさい」とエマの分の紅茶を入れながら甘利を迎える。「なんかこうしてると......」言葉を濁しながら口にする田崎の言葉に甘利が返す。「え、夫婦みたいって」私に対して遠慮がちに言うことから優しさは伺えた。「いや、どこかの若い女を誑かして産まれた子を抱く富豪に見えなくも無いと思って」と答えている。その田崎の言葉に甘利は結構なダメージを受けてるように見えた。せっかく田崎が行った配慮に実井は息を吹き出して笑ってる。「エマ、これから結城さんに挨拶に行こうか」甘利の言葉に「あいさつ」と不思議がるエマを連れて甘利は食堂を出て行った。ドアが閉まる前に甘利と目があったのできっと、魔王にでも「あいつも連れて来い」と言われたんだろう。渋々だが淹れた飲み物を諦めて立ち上がり食堂を後にする。私は無関係を貫きたい気持ちでいっぱいだ。
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作者名:カナリアナ | 作成日時:2019年3月28日 23時