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41枚目 賛美歌 ページ40

愛娘と愛犬を彼に託すためにドイツの諜報機関は工作員全員に即効性の毒薬を渡しているシンシアはもはやこの世の人ではあるまい。正確にはエマと親子の関係をもてるほど綺麗ではないと、言ったとこだろうかこれからの事について二つの選択肢を考える。一、エマとフラテ、内海の三人でハワイへの移住。二、みんなを連れ日本への帰還。一の場合、これからの戦争が激しくなると迂闊に海の航路は絶たれてしまう。二は、結城中佐から許可を得る必要があるが日本まで連れ帰れば「捨てておけ」と言えないだろう。「まあ、何とかなるだろう」次第に大きくなる背後の騒ぎからエマの耳を塞ぐように唇を丸め口笛でエニグマ変奏曲を高らかに吹き始めた。


 ケロベロスの件もひと段落つき港に降りる。もちろん、エマとフラテも一緒だ。きゃっきゃと走り回る二つの影を横目に私たちは次の任務について話していた。迎えの車は見当たらず、帰国した際にいたメンバーを思い浮かべるが辞令を出した小田切、任務の為に出国しているだろう波多野、同じく見当たらない福本、アジアン・エクスプレスに乗車した田崎、任務の為か姿が見えない実井、なんなら一番の迎え候補に名が上がりそうな神永、すでに出国した三好、どのメンバーを思い浮かべてもそれぞれが手いっぱいだろう。ここは自力で帰る方が良いかもしれない。エマとフラテを呼んで帰りのチケットを取る。やはり、日本人二人と欧米の女の子それに犬じゃ目立つ。変装も考えたが、エマに説明がつかない。


 それならば、と二手に分かれた甘利とエマ、私とフラテ。これなら説明がつきやすい。甘利は外国人の嫁との間に生まれたハーフの子供を連れた日本人。私は犬と旅行中の若い女。帰国するまで気は抜けなさそうだ。一日中船に乗り疲れたのかエマは私のベッドで寝てしまった。フラテは私の部屋のクッションの上で大人しくしている。甘利と合流して私の部屋に集合した。


 寝ている顔は幼く、母親と離れるにはまだ小さすぎる。夢でうなされるエマを抱き上げて背中を撫でてやる。体温の高さと胸にかかる体重が愛おしくつい口元が綻ぶ。「そうしていると、本当のママみたいだ」ママ、と幼児語で揶揄する甘利。「私の柄じゃないわ」再びエマをベッドに寝かせてトランクから服を取り出し風呂へ向かう。「そうだね、君は僕の美しい女神だ」甘利はナチュラルに口説いてくる。「あら、欧米の美女を相手に散々口説いてきただけあるわね」

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作者名:カナリアナ | 作成日時:2019年3月28日 23時

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