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39枚目 ページ38

非武装の民間の貨物船を攻撃して機密書類入り鞄を強奪するとともに証拠隠滅のために貨物船を爆破沈没させた。作戦指示書が奪われた事実が知られたのでは英国海軍が作戦を変更する恐れがある。作戦指示書は奪われたのではなく失われたと思わせるよう船もろとも全ての船員を海に沈めたのだ。その後ドイツ軍は強奪した英国海軍作戦指示書の内容をエニグマ暗号を使って友軍に打電。英国はこれを傍受しそこに記された作戦内容とエニグマ暗号文をつきあわせることで解読の手掛かりとした。自ら種を蒔き、自ら刈り取る。マクラウドはこの作戦を庭仕事〈ガーデニング〉と名付けた作戦概要を洗い出した内海は呆れて首を振った。


 まるで狐と狸の化かし合いだだがそのために何も知らされない貨物船の乗員が犠牲になったのも事実であった。一息に語り終えたシンシアは長い間肩に乗っていた重い荷物を降ろしたようにほっとした顔になった。ドイツのスパイとして祖国を裏切り続ける行為が彼女にとって容易であったはずはない。だが彼女が葬儀の場で盗み聞いた情報など公にしても握り潰されるのが落ちだ。葬儀の場で義憤にかられて、マクラウドを問い詰めた若い英国海軍兵にしても機密漏洩の罪に問われることを恐れて公の場では決して認めようとはしないだろう。だからこそシンシアは心を鬼にして祖国を敵に回した。


 ドイツの秘密諜報機関に入り、スパイとしての訓練を受けた。だが、所詮は素人の付け焼き刃だ。とっさの場合、状況に応じて柔軟にやり方を変えることまではシンシアには不可能だった。教わったとおり指紋をマニキュアで消して毒薬をグラスに注ぎ込みました。皮肉なことに、犯罪行為を隠蔽するマニュアルどおりのその方法こそが彼女が犯人であることを内海に証明してしまったのだ。


  それだけではない。シンシアが放った「ステイ、だめ。止まって来ちゃだめ」内海の疑惑を招くことになったあの指示。おそらくドイツの秘密諜報機関はシンシアに二つのことを指示していた。一つは、標的の写真を毎日確認すること顔は変わっても耳の形は変わらない。もう一つは、標的に悟られないよう写真を誰にも見つからない場所に隠し持つことだ。矛盾しかねない二つの指示にシンシアは忠実に従った。フラテの首輪に写真を隠すことによってだシンシアは朱鷺丸の甲板で憎き仇マクラウドの姿を見つけた。

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作者名:カナリアナ | 作成日時:2019年3月28日 23時

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