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後は彼をハワイで下船させ逆スパイとして利用すれば良いだけだだが、マクラウド氏の死によって計画は変更せざるを得なくなった。何者かが結城中佐の思惑を挫折させたのだ。
それがいったいどんな不確定要因だったのか。魔王のごとき結城中佐を欺いた謎。内海は任務の枠を超えて何としてもその謎を解き明かすつもりだった。その為にたとえどんな犠牲を払うことになったとしても、マクラウド氏の船室からは手掛かりとなるようなものは何も見つからなかっ。た「船医室に置いてあったあの薬品、たしか指紋の検出に使えるのですよね」
否、見つからなかったのはそれだけではない。内海はイギリス人指揮官を誘導しマクラウド氏が飲んだグラスを回収させ指紋を調べた。マクラウドが飲んでいたのは口の狭い背高のグラスだ。足もと定かならぬ船の上しかも酷い嵐のために、平衡感覚を司る三半規が揺すぶられた直後だった。
内海とマクラウドが席を離れていた時間はわずか。何者かが急いでグラスに毒を混入させたとしたら、その際、グラスに触れた可能性は少なくない。だがグラスから検出されたのは亡くなったマクラウド氏、グラスを運んできたパーサー、飲み物を作ったバーテンダー、この三名の指紋だけだったという。グラスの縁に触れた指の痕がもう一つあるにはあるの、がその痕跡からは指紋は検出され無かった
いったん談話室に戻って行われた。調査結果報告に内海は密かに眉を寄せた。指紋のない指痕。犯人は手袋をしていたということか
しかし、内海は周囲を見回し目を細めた。外は見渡す限り青い海と青い空だ。水平線には見事なまでの入道雲が浮かんでいる。常夏の島ハワイ入港まであと数時間この状況で、手袋をしていて笑われない人物といえば湯浅船長くらいなものだろう。
内海は厳しい顔で報告を聞く。湯浅船長を窺い見る違う彼ではない。湯浅船長にはアリバイがある。イギリスの軍艦が洋上に姿を見せて以来、湯浅船長は船橋に詰めきりになっていた。一等甲板に置かれたマクラウド氏の飲みかけのグラスに毒を入れる機会はなかった。
アリバイ、そう考えて内海は顔をしかめた。あの時一等甲板に出入り可能だったのは、朱鷺丸の乗員と内海を含む一等船客五十二名その全員にアリバイがない。「やむを得ません、こうなったらこの船の乗員と一等船客全員の持ち物検査を行うしかないですね」案の定、イギリス人指揮官がそう切り出した。
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作者名:カナリアナ | 作成日時:2019年3月28日 23時