46枚目 牛乳を注ぐ女 ページ46
日本の四季はどれも過ごしやすい。そう言われているのを外国から帰国した際には強く身をもって実感する。世間は夏だと騒いでいるが、ここの機関生は暑さにうなだれる様子など見せずにいる。しかしこの食堂に一堂が会すのを見れば、夏の暑さの中では外に出るのが億劫だったことが容易に憶測がつく。「Aさんお茶を淹れてくれませんか」いつもは敬称などつけて私の名を口にしないのに、こんな時だけ態度を変える男に心の中で悪態をつき席を立つ。「他にも飲む方はいますか」と回答を求めると全ての手が上がった。一人の為なら無駄に思える行動もみなが飲むならと全員分のグラスを出して湯を沸かす。
グラスに注いだお茶を配布する。グラスにあたって軽い音をならす氷が夏の風物詩になる。それぞれが作業をやめて机に集合した。カードゲームや賭け事以外の理由では珍しい光景だ。唐突に暇を持て余したやつが口を開いた。「Aの過去を話してくれないか」と。「私の過去なんて語れる程もない、つまらないものです」そう言ってもいつの間にか彼らの口車に乗せられている。諦めたようにため息をついて話し始める。「私には兄がいたんです。十以上も離れている私にも優しくて頭が良くて。運動は苦手でしたが申し分ないくらいの出来のいい兄でした」
夏の暑さと共に兄との記憶が蘇る。考え事をして口を閉ざした私に「それで、お兄さんは今はどちらに」先を促すようにせっかちな彼が聞く。「兄がどこにいるのかは知りません」いつからかコイツらはそう鈍くなったのだろうか。「ご結婚なさって家を出られたのですか」私の表情を見て察することの出来るはずの彼は的外れなことを言う。「兄は家を出されました。私が三つの時に。幼かったので詳細は分かりませんが、きっと親との反りが合わなくなったのでしょう。それからと言うもの兄の存在は居なかったものにされてました。私だって先ほど思い出したくらいですから。随分と長いこと忘れていました」母の兄に対する執着は凄かった。何をするにも兄の身を案じて、連む友達まで決めていた。
幼い私以上に自分の手の届く範囲に兄を置きたがった。その気持ちを汲んでいたのだろう兄の姿はいつも家にあった。勉強に集中して丸まった背中にいつも抱きつく。母に見つかれば勉強の邪魔になってはいけないと部屋を出される流れを日に何度も繰り返した。兄がどんな顔でなんて言葉をかけてくれていたのかは忘れてしまったが、兄は優しかった。
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カナリアナ(プロフ) - エルモさん:仲間ですね！！自己満足になってしまうんですが、小説も頑張っていこうと思います。読んでくれてありがとうございます！！ (2019年12月9日 21時) (
レス) id: ddfa994d58 (このIDを非表示/違反報告)
エルモ - ジョカゲ好きです！！ (2019年12月9日 20時) (レス) id: 9cee2cc714 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：カナリアナ | 作成日時：2018年12月12日 21時
